収束する悪意とその行方。狙われた少女ミーナ
視点語りや、その時間軸は主人公と前後します。
俺はその男の存在に、割と早い段階から気が付いていた。
俺へと絡みつく、その視線には俺への悪意が見て取れた。
(街中で敵対反応って、何かと思ったらアイツだった)
前に俺と、冒険者ギルドで会った事がある奴だよな?
記憶では確か、俺が冒険者になる直前だったか、その時ウザ絡みをしてきたオッサン冒険者だった筈だ。
ベテラン冒険者というよりは、もうイイ年して街のチンピラしてる奴って印象だった。
汚ない手で、気安く俺の体に触ってきたので、ついワンパンで沈めた相手だ。
うーん。どうやら、あれから逆恨みをされているっぽいな?
執拗に付け回されるのも、あまり気分が良いものではない。
日に日に増していくような、悪意のある男の視線。それがチリチリと、俺の首筋を刺激する。何か嫌な予感がする。
「ブルーアイ《魔猫》、モッチー《魔鼠》、あいつだ。あの男から、何か嫌な感じがする。徹底して監視しろ」
眷属達に、俺は思念で男の姿と指示を飛ばした。
さあ逆ストーカー作戦の開始だ!
眷属達からは、即座に『承知致しましたわ『御意!』』との思念が返ってきた。監視は全て任せよう。
「しかしあの、尋常ではない奴の雰囲気は一体何だ? 何か仕掛けてくるつもりなのかな」
奴程度に、万が一でもこの俺が、どうこうされるつもりは無い。だが一応、油断はしないでおこうと決めた。
悪意を持っている、という理由だけではこちらも何も出来ないので、対象の発言や行動の監視は重要なものとなるだろう。
警戒はしておいて、何かしてくるなら即返り討ち。その際は容赦しない。
俺が王都へ行く前に、スッキリ何とかなると良いね。
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俺はひたすら、そのチャンスを待っていた。
憎悪の対象である女は、中々に隙が無かった。
大抵毎日、部屋に閉じこもって生活しているのだ。
――あの年頃の女で、しかも冒険者らしくはない。何らかの研究する学者みたいな、部屋で引き篭もる様な奴等と同種ではないか? 本当にあれで冒険者か?
そして、珍しく外へと出歩いている時でも、こちらがジッと見つめると、すぐ女と視線が合う様なこともあった。
『チッ! 勘のイイ小娘かもな。ほんと厄介だぜ』
――やはり、狙うならガキ(孤児)のほうだ!
そのガキは、夜中に孤児院から抜け出し、何故か1人で街を出歩く悪癖がある。
『その時を、狙えばいいのさ。ククッ』
そして、俺はひたすら夜中に孤児院の前で監視を続けた。
『それにしても、最近野良猫どもが増えてきたんじゃないのか? ええい、うっとおしいな。あっち行け! シッシッ!』
気が付けば、野良猫が周囲をウロウロしている事が増えた。
俺に餌を強請る訳でもなく、気が付いたら傍に居るのだ。
建物の中に居ても、どこからか視線も感じるようになった。
嫌な感じがして、何度か野良猫を俺はそうして追い払った。
そうすると、その猫は居なくなる。だがまた違う猫が、遠巻きにこちらを見ているような気がする。
何だこれ。凄く気持ち悪い。
猫に見られているとか、俺の気のせいかもしれないが、確かに視線を感じるのだ、絶対に見られている。
そして最近は、胸もズキズキと激しく痛む。
ありもしない、変な視線を感じたりするのも、きっと相当ストレスが溜まっているせいだ、そう最終的に俺は結論付けた。
だがついに、俺にチャンスがやっと訪れた! あのガキが夜中ついに孤児院を抜け出したのだ。
――やっと巡ってきた、この絶好のチャンスを俺は逃さない!
ああ、しかし毎日胸が痛ェ。今回金が手に入ったら、一度ちゃんと魔法で見てもらうかな?




