武闘派モッチーの暗躍
モッチー……。
「では自己紹介するでゴザル」
拙者は魔鼠の【モッチー】と言う未熟者にゴザル。
艶やかに、真っ白で綺麗な全身の体毛。そして真っ赤で円らなこの両目こそが、自慢のチャームポイントでゴザルな。
……いやぁ、自分で言うのは何か照れるでゴザル(笑)
生まれも育ちも、この街カカロッティの下水でゴザル。
他の有象無象の雑兵共よりは、生まれつきに体格などが恵まれていた拙者は、スクスクと成長するとすぐにこの辺のボス的な存在の1匹として、大層幅を利かせていたでゴザルよ。
実際に、ステゴロのタイマン勝負で負けたことは、一度も無かったでゴザル。
まぁ何匹かは、拙者と良い勝負をする者は確かにおりました。しかしそれは、大体が群れで襲ってきたのでゴザル。
――拙者が1匹の時を狙って。
まぁ正直言って、小賢しいだけの奴等でゴザル。最初からタイマン勝負なら、某が余裕で勝つのは必然でゴザルから。
そのような感じで、縄張りに幅を利かせて手下を引き連れ、オラオラとねり歩いていたその時でゴザル。
最近この辺りで【鬼美姫】などと呼ばれる摩訶不思議な猫が居るって~話しが、拙者の耳に入ったのでゴザル。
ただの好奇心で、それじゃちょっくら顔でも拝ませて貰おうか! とか思ったのでゴザル。
それが運の尽き……だったのでゴザル。
その辺の猫なんぞに、某が負けるとは思わなかったのがそもそもの敗因。
今まで拙者に襲い掛かる、馬鹿な生き物はすべからく返り討ちにしてやっていたのでゴザル。
――今思えば、正直調子に乗って、天狗になり油断していたでゴザル。
その【鬼美姫】相手に、拙者は馬鹿正直に真正面から向かい合ってしまったのでゴザル。
更には「拙者と勝負しろ!」とばかりに、猫を睨み付けた。(ガンツケ)
流石に背丈では、猫相手には負けていました、サッ! と器用に二本足で立ち上がって、この両の手で自慢の拳を握り締め【シュッシュッ!】と拳を連続で素早く突き出し威嚇してみたのでゴザル。
それまでは、ずっとただ眠たそうに欠伸をしながら某を見ていた猫だったのでゴザルが。
――だが次のその瞬間でゴザった!
鬼美姫と呼ばれる猫からは、物凄いプレッシャー(重圧)が、拙者の体に重く重くのしかかってきたのでゴザル。いやぁ、あの時は真にビックリしましたよ。
もう助からない。絶対殺されるって感覚だったのでゴザル。
生まれて初めて、真なる恐怖と言うものを知ったのでゴザル。
その後の事は、よく覚えていないのでゴザル。
気絶した某を適当に小突き、そのままドコかに運ばれ。
気がついたら【鬼美姫】の飼い主らしき人の前に、無造作に転がされていたのでゴザル。
某はもう瀕死でした。逃げられないように、ここまで弱らされたのですゴザルな。
死を身近に感じ震えました……。もう今度こそ助からない。次に目覚める事は、もう無いのだとそう思ったのでゴザル。
しかし何故か、その人間は拙者をジッと見たまま動かなかったのでゴザル。
暫く観察してから、やがて何やら指先から滴る液体を、拙者に飲ませてきたのでゴザル!
……不思議な液体でゴザった。
無味無臭だけれど、飲んだ後から全身に力が漲っていく感覚。
その後すぐ、また別の液体を全身にぶっかけられたり、色々と飲まされました。
……そして何故か、某は転生し魔鼠となった次第。
何でも【眷属化】と言う事みたいでゴザル。
詳しくはよくわからないでゴザルが、わが主様はとにかく凄い存在だと思ったのでゴザル!
それに以前より、拙者のパワーがUPしているのを感じるのでゴザル!
「これならもう、誰にも負ける気がしないでゴザルよ!」
シュッシュッ! ヒャッハー汚物は消毒するでゴザル~
『……ニャ~?』(チラッ)
……!
すんません! ブルの姐さん。ちょっと拙者は調子に乗ってたッス! ほんとスンマセン! チョー反省するッス!
姐さんに勝てるだなんて、全く思ってないッス。本当ッス。チュッチュ~、嫌だなぁもぅ~❤ あ、チーズ食べます? どうぞどうぞ。
拙者は偉大な御主人様と、ブルの姐さんの忠実な下僕ッス! 本当ッス!
いつでも命令して下さいッス。頑張るッス。オッス! オッス!
『ニャー?』(プイッ)
ふぅー……。何とかなったでゴザル。危うくまた三途の川を渡されると予感したでゴザル。
調子に乗っちゃダメでゴザル。今後は冷静に行くのでゴザルよ。
確かに、御主人様は気さくな良い御方だけど、ブルの姐さんの目が……。某には非常に厳しいのは、何故なので御座ろうかぁ。ともあれでゴザル。
――御主人様に忠義を尽くし、命を賭して仕える所存にゴザル!
あ、そうそう。とりあえず御主人様から仰せつかった、命令があるのでゴザル。
それは、某に出来る形でこの街の掌握を速やかに行う事。
そしてミーナと言う、人間の少女の身辺警護でゴザル。
これはブルの姐さんとの、共同で当たる重要な案件でゴザル! このモッチー。命を懸け精一杯頑張る所存!
……ところで御主人様。この……びようさぷりめんと? なる物ですが。ちょっとだけ、食べてみても良いでしょうか? いえいえ、とても美味しそうなので……。チョットダケデモイイデスカ。
え? 少しなら食べてもいい? マジッスカ!?
御主人様、やっぱり最高ッス。マジ一生付いていくッス!
おぉー、食べたらなんかまた、全身に力が漲るッス! 凄い効果ッス!
……ではちょいとこの辺で、拙者は一旦失礼するッス。
(このまま一っ走りして、この街の奴等を残らずシメておくッスよおおおお!)
このモッチーに、全てお任せあれッス!オッスオッス!
(ダダダダーッ)
――この街に住む様々な動物達は、こうして荒ぶる武闘派モッチーの手により、速やかに掌握されましたとさ。




