ペロリ……これは青酸カリ?
わらわは魔猫のブルーアイ。
つい先日だが、猫だったわらわは死んだ。
――そう、確かに死んだ。
生まれつき病弱で、野良猫のわらわは、親猫からの保護が無くなるとすぐ、路頭に迷うことになった。
1匹では、安心して寝れる居場所も無く、日々の餌にも困る生活になった。
そのあまりの空腹と、栄養不足からか自慢の毛並みもボロボロに。
――すごく泣きたかった。いや実際、毎日泣いていた。
お腹が空いた、体の不調と孤独で毎日寂しいと泣いた。
けれど救いの手は無かった。現実は厳しいと感じた。
それはそうと、同じ猫族でも中には奇特なオス猫がいたりもする。
ガリガリのわらわの体目当てに、甘い声で擦り寄って来る輩もいたのだが、そもそも病弱な体のわらわには、まだそういう時期は来ていない。
むしろ私を殺す気か!? と本気でそう思い、そんなオス猫を精一杯威嚇し、何とか追い返す毎日だった。
どうせ、こんなわらわを守ってくれる存在は無く、周りは敵だらけ。
――この世はいつも、弱肉強食の世界。
そんな日々が続くと、わらわの持病が悪化して死に掛けるまで、そんなに時間はかからなかった。
……ついに、自分の体が動かなくなった。
何とか、今日こそ餌を確保しようと、必死に体を動かしていた。でもわらわは、途中でついに力尽き道端で倒れた。
きっとこのまま……わらわは死ぬのだと予感した。
時間にして、そうどのくらいであろうか?
不意に近くで何やら音? がした。
「※Ш#! мШ$в£ИЖ?」
……よくわからない。でもどうやら、人間に声を掛けられているのがわかった。
何とか薄目を開けて見ると、どうやら人間の雌のようだった。
そしてわらわの体が、ゆっくりと人間のメスに抱き上げられる感覚があった。
「気安く触れるでない!」
シャーッ! と何時なら抵抗するような気力も、今はもう無かった。
ただただ大人しく、グッタリしたままのわらわを、この人間は運び始めた。
その風を切って走る音はとても大きく。ものすごい速さで移動しているのはわかった。
――不思議と、揺れは感じ無かった。
もうそういう感覚もなくなってきたのかと、そのときは思った。
酷く弱気になったわらわは、意識を失う事になった。
そして、意識が戻ると、そこでは瀕死なわらわを、必死に人間達が、どうにかしようとしてくれていた。
自分の傍に、そういう人間がいる事だけは確かに伝わってきた。
「感謝するぞ? そこな人間達よ」
お礼に、精一杯の声で鳴いてはみたが、きっとそれは伝わらないであろうな。猫の言葉など、理解出来まい。
……そして、いよいよもうダメかと。
わらわも人間も、そう思った時!
わらわを抱いた人間の目からは、絶え間なく溢れ流れ落ちた透明な水が、わらわの顔に当たった。
そして口の中に、それは当然流れ……入ってきた。
ペロリ……これは……。
「不思議と力が漲る! 美味じゃ!」
クワッ! とわらわは両目を見開いた。
これほどの美味は、今まで味わった事は無い。
今はもう遠い記憶にある、母上様のその乳の味にも勝るな! 母上様すまぬ。
そして夢中で舐める。懸命にペロペロと舐め続ける。
わらわは限界まで、頭を近づけその液体を舐めた。
舐めれば舐める程、不思議と力が漲ってくるような感覚。
だがそれでも、もうどうしようもなく瀕死だったわらわは、燃え尽きる前のロウソクの火のようなものだった。
そしていよいよ、わらわは深く意識を失ってしまう。
今度こそ、もう終わり……。
――死ぬ。
……。
……にゃっ!?
突然、力強くそして温かなものを感じたわらわは、何故か意識を取り戻した。
以前よりも、カラダに力が漲っている!
全ての感覚も、もう元通りになっている。
これは一体、どうなっている!?
すっかり元気になった、わらわを抱き上げてとても喜んでいる人間達がいる。
その感情が一気に、わらわの中へと流れ込んで来て全てを理解した。
そう、わらわは全て理解した。
わらわは、この人間達の眷属【魔猫】として生まれ変わった。
御主人様達の、この喜びの感情が奔流となって、わらわに押し寄せて来る。
悦びの感情の大波、ビックウェーブの連続なのにゃ~!
どうしようもないくらい、この愛おしいご主人様達に感謝を。
でも……そろそろ、わらわを撫でくり回すのを、ちょっと……そろそろ許して欲しいのですが。
あっ! あっ! ソコは駄目。ダメなの!
ソコは、弱いのです。いくら御主人様でも、ソコは触っちゃ駄目なのです!
アッ……アーッ! ソコッ駄目ッ! ダメなのーーー!
……。
ああ、わらわの敬愛なる御主人様。
この魔猫の最大限の感謝の気持ちと、永遠の忠誠をここに。
『ニャウ~ニャー!』(誓います)




