やってみよう! やればわかるさ何事も
「さあ、今日から俺は、女神様のヒモ(笑)を脱却するぞ」
『ニャー!』
俺はこれから、冒険者ギルドへ行って依頼を受け、その報酬を得るのだ。脱ニート。グッバイハロワ。
俺の今の冒険者ランクだと、ロクな依頼は受けられないのだが、早めに銀のプレートである【銀級】冒険者と呼ばれるくらいには、なっておきたいのだ。
しかし、あまり目立ちたくはないので、その辺も要注意だ。
紅の海豚亭で、朝食のパンをもぐもぐしながら、俺はそう考える。あー、このパンも美味いんだな~。
宿屋ですっかり看板猫となった、俺の眷属【蒼眼】も、美人女将からちゃっかりと朝ご飯を貰い、俺の足元で一緒に仲良く食事中だった。
これは女将の好意であり、猫の餌代は不要とは言われたのだが、流石にそれにずっと甘えるつもりはない。
すぐに家族の分も、俺が稼いで全部払うんだ!
そして親切なこの女将にも、何か御礼をしなければ気が済まない。
しっかりと朝食を終え、気合も充分。意気揚々と冒険者ギルドへと俺は向かう。
当然の様に、魔猫も一緒に付いてきたが、多くの人達が出歩いているのだ。万が一、億が一、金田(以下略)誰かに踏まれたり、蹴られたりしないか心配になる。
もし、そんな事になれば、俺はその加害者に何をするかワカラナイ。
それが、あまりにも心配になった俺は、魔猫を両手で大切に抱いて移動する事にしたのだった。
この魔猫は、そのあまりの《高貴なるオーラ》ぶりで、周囲の視線を一身に集めているって事、俺はとっくに最初からずっとすでに余裕であっさりと当然に気が付いていた!
「フフフ……。そうだろう? わかる(ニヤリ)」
俺も、つい嬉しくなって上機嫌になり顔が緩む。
『ニャ~……』
何故か呆れたような意識が、魔猫から伝わってきたが一体何故だろう。きっとまだ、眷属との意思疎通が完璧ではないからだなと思い、俺は気にしない事にした。
おっと。そして冒険者ギルドに到着。
朝一番の、この時間帯は最新の依頼も貼り出されたばかりで、クエストボードの前には沢山の冒険者達で賑わっていた。
俺は、猫を抱きかかえたまま依頼板へ歩いて行く。
うん、何も見えない。爪先立ちしても無理。
そこまで低くないのだが、今の俺の身長ではガタイの良い男性が多い冒険者達が大勢で前を塞いでいたら、とてもでないが視界ゼロだ。
だが、ここで下手に力は使えないぞ。よく考えろ俺。
悪絡み《テンプレ》された時なら別だが。
そして奥の手である、魔猫ちゃんを両手で精一杯掲げ上げた俺は、テストも兼ねて視界の共有化で何とかしようと試みる。
傍から見たら、一体貴女は何をしてるんだ? って状態だろう。
真剣な趣で、依頼板に鋭い視線を送る猫(可愛い)
その猫を、両手で必死に掲げる飼い主の女性。
何だか変な意味で、有名になりそうだった。
「廃家の解体手伝い:急募3名」 報酬 大銅貨7枚(解体完了まで)
「逃げたペット《猫》を連れ戻して」報酬 大銅貨2枚(3日以内の早期確保、無傷で確保は追加報酬+大銅貨各1枚)
そしてこの2つが、俺達の目に付いた。
家の解体か。何かを壊したり運ぶ事だけなら、今の俺でも十分イケるはずだ!
力仕事なら大丈夫だ! 問題ない!
こちとた何しろ、疲れを知らないミラクルボディ!
キツそうな肉体労働だけに、報酬は良いほうだ。
だがしかし、この解体は全部完了しないとその報酬は得られないみたいだ。
そんなに何日も、1つの依頼に時間は掛けたくない。
そしてペット捜索だ。俺の眷属の魔猫がきっと役に立つだろう。特に追加報酬が美味しいと感じた。
上手くいけば大銅貨4枚GETだ。
俺達は1人と1匹で手分けして捜索可能だ。
魔猫も100%見つけられるとは限らないが……。
いや、俺達なら出来る! やれる!
弱気やネガティブ感情なんて今は必要ない。
「案ずるより産むが易しだ」やってやれない事は無いだろう。
いや、やれば出来る。出来る筈だ。やれる。俺達ならやれば出来る。絶対に出来る!
俺達がやらずして誰がやる? やるしかない。このビッグウェーブに乗るしかない。
謎の精神で、俺はその依頼2つを受ける事に決めた。
力仕事は俺が担当し、魔猫はペット捜索の担当だ。
この2つならば、適材適所で達成も可能と考えた。
解体依頼は3名まで募集中だし、ペット探しは緊急依頼だ。
要はペットを一番早く探して、無事に依頼者へ届ければいいのだ。
分担して同時に依頼を受けてみるのもアリか?
ギルド受付嬢に話し、廃家解体とペット探し依頼を同時受注した。
『一度に2つも、依頼受けて大丈夫? しかも女性で力仕事?』みたいな視線や無言の圧力を受付嬢から強く感じたが。
でも「私って意外と力持ちなんですよ?」と軽くアピールはしておいた。
依頼失敗の要素は無いので、厳しい判断はない。
まあ失敗するつもりは無い。キチンと行動(結果)で示していけば良いのだ。
ペット探しの依頼者の家や、解体現場などを聞き、まずはペットの飼い主のお宅訪問とした。
ちょっとセレブな感じの、ふくよかなオバ様が飼い主だ。
家もかなり大きい。豪邸だ。
肝心の、迷い猫の姿形などを聞いて、蒼眼にそのイメージを俺から送りペット捜索を開始させる。
何しろ今回は元同族の猫探しだ。すぐ何らかの情報は得られるとみた。
そうして俺は、もう1つの依頼である現場へ。
――廃家の解体現場へと、1人で向かうのだった。




