世界に染む
何かを「待つ」人が出てくる小説
それは眩しい太陽のようで、いつもショータの憧れだった。でもね、強い自分だけのヒーローが泣く姿を待っていたわけじゃなかったんだよ。
だからショータは震える君を守るように抱きしめたんだ。
それはけたたましい喧騒共にやってきて、キラキラと輝いている。割れた窓の中からゆっくりと侵入して来た。破片が光に反射していただけなのに、本当に彼自体が発光しているように見える。
それがショータの一番最初の記憶だった。
内気な自分を変えてくれるヒーローはいない。他力本願な自分にやってきたのは、猫のように気分屋なヤツだ。
「ごめん、そのボールさ。オレの」
切れ長の意思の強い瞳がまっすぐにショータを射抜く。その光景が衝撃的すぎてその場に固まった。
「なんだ、お前ゲームばっかしてんのか?暇だろ一緒に遊ぼうぜ」
割れた窓を謝罪もしなかったが、代わりに見たこともない景色をソイツは見せてくれるんだ。
アッと驚くほどにモノクロの世界が塗り替わり、180度違う世界が音を立てながらやってくるじゃないか。ファンファーレと共に、迷いのないウサギは不思議の国へと手を引いていく。もう窓辺から寂しさを噛みしめる少年はそこにはい。寂しさは消え失せ、待ち望んでいた『何か』を届けてもらったのだから。
でも、そういう時に限ってうまくいかないことってあるんだよ。ショータはこの街を引っ越すことになったんだ。
真冬の公園に初めての友達を呼び出した。初めてのことで心臓が爆発しそうだ。ずっとずっと日が暮れるまで、雪が降っても、ショータは待ち続けた。
–––もう帰ろうかな。
そう思った時に、視界の隅にソイツを見つけたんだ。
「よぉ」
沈んだ顔が目に焼き付いた。コイツは誰だ?自分の知っている自信に満ち溢れた人間は、そこにはいなかった。
見知った顔が、真っ赤なワンピースを着て恥じらいながら涙を流している。
「泣いてんの」
全てが赤く塗りつぶされたように見え、雪の白さが彼女を炎のように燃え盛る何かに見せた。
「いつまでバカみたいに待ってんだよ」
「それは待つよ」
涙が滲んで手が力んでいる。
何度も口を開けては–––閉じて–––繰り返しパクパクと言葉は宙を空振り、丹念に言葉は紡がれる。
「オ……わ、わたし。騙してたんだ」
「見ればわかるよ」
カッコいい奴なんていないんだと、不細工な笑顔を見て思った。風邪みたいに気持ちがいいヤツのぶざまな姿、誰にも見せたくなかった。
この気持ちに名はないけれど、前の自分とは違うことだけは理解できる。
「きっとまた戻ってくるし、僕は君の一番の親友だから……それは変わらないし」
「オレもだよ!!だからきら」
「嫌いになんてなるわけないだろ」
–––親友なんだから。
10年後、待ちわびた再会の日に現れたのは……長い髪のかわいい人で、ショータが背けた顔はリンゴのように赤かった。
こどもは無色透明で、何にも書いていない真っ白なキャンバスと同じだと思うんです。
何にもなれるし、どんなことだって思いつく。しがらみもなければ、無限大に夢げることができる……そんな不思議な生
命体だと思います。
だから子供が神様っていうのはあながち間違いではないと思います。
こどもの頃に戻りたい。
何も考えたくない。
何者にもなりたくない。
そんな透明で無限大な『ナニカ』になりたい。