ハメたつもりがハメられた人が出てくる小説
___こっちの方がいい
___いや、僕が正しい
僕らの意見が合うことは決してなかった。
目障りというわけではなかったが、癪に触ることは何度もあった。僕も君もお互いの意見を譲らないから、喧嘩は絶えず起こる。けれど嫌いになれなくて、結局友達を続けている。
「なぁ君、僕はここを出て遠いところに行くらしいんだ」
「それじゃあ勝負がつかないじゃないか。勝ち逃げなんて許さないぞ!」
珍しくしおらしい顔をしている友達を見て、僕は悲しみよりも怒りがこみ上げて来た。このまま自分だけなんて許さない、僕は僕の意見が正しいということを君に理解させなくてはいけない。
だから僕は、彼をワナに嵌めて僕の世界か消した。赤い衣を剥いで、バラバラに切り刻んで深い水底へと突き落とした。彼は声さえ上げなかった。
「なぁ、なんとか言えよ」
僕は棒で水をかき混ぜた。濁った水だから、こうしないとそこまで見えない。火を放つと沸騰して、香しい匂いさえしてくる。僕が君を殺したはずなのに、僕が君に殺された気さえした。
結局僕らは和解できなかったのだと絶望した時、君は教えてくれたんだ。
「トマトって……カレーにもあうんだ」
君をサラダや冷菜にしかできないと思い込んで、僕は君の可能性を減らしていたんだね。無限大の君の道を、どこかで閉ざしてしまっていたんだ……。
悔や恥と同時に、僕は君にしてやられたと感じた。君は体を張ってまで自分の可能性を示してくれたと同時に、僕の体の中で君が生きているということを教えてくれたんだ。
「ありがとう、トマト」
僕は一生君には敵わない。
ショートショートの王様は、あんな短い文章に起承転結を詰め込んでいてすごいなぁといつも思います。
別に長文は長文の面白さがあるので、なんともなのですが。
ちなみに前の話を改稿してガラッと変えたので是非どうぞ。