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鶴のかけ

作者: Satsuki

 

日本中の恋人達が愛を誓い合う聖なる日の午後、私は教室で鶴を折っていた。

 一体私はなにをやってるんだろう。

 もう何度したか分からない自問をし、何度ついたか分からないため息をつく・・・

「手、とめんなよ」

 前に座っている荒木から声がかかる。こいつがそもそもの発端だった。

  期末テストの前日、

  “期末の合計点で負けた方が勝った方の言うことを聞く”という軽そうに見えて

 かなり重たいことを賭けて私は荒木と賭をした。

 勝算がないわけじゃなかった。問題は荒木の成績を全く知らなかったことだ。蓋を開けてみれば、僅差とはいえ負けていた。

 何か奢れば済むと思っていた私に荒木は言った。

「鶴、折って。」

 予想をいい方向に裏切られ、私は思い切り頷いた。

 が・・・、私に手渡されたのは百枚を軽く超えているであろう折り紙の束。 

 唖然とする私に荒木はさらりと言ってのけた。

「200羽」

 

 そして今に至る。残り3羽。

 前で荒木が悪戦苦闘しながら鶴に糸を通している。

 

 あの日、理由を聞いた私に荒木は言った。

「俺は真の千羽鶴を作りたい」

 言葉が見つからず固まっていた私に荒木は真の千羽鶴を作るに至った経緯を説明してくれた。曰く、彼は幼少の頃何度か入院した(初耳である)

 その都度、友人たちが千羽鶴を折ってくれたらしいのだが、それは997羽だったり

 1001羽だったりとにかく、きっかり1000羽ではなかったらしい。

 故に、“真の千羽鶴”を作りたいのだそうだ。

(ちなみに、残り800羽も別の友達との賭に勝って作らせているらしい)

 

 

 

 そんなくだらない企画に巻き込まれて、今日まで付き合わされている私は

 いったい何なのか。恨みがましい目で荒木を見る。

「俺さぁ、鶴の恩返しって結構深い話だと思うんだよね。」

 と、荒木は突然話し出した。

「あの、おじいさんが山で鶴を助けて、そしたらその晩若い娘がやってきて〜って話?」

「そうそう、やってきた娘は奥の部屋で機を織る。ただし、その部屋の戸は開けてはいけない。機は高く売れる。しかし、機を織るごとに娘はやつれていく。やがて好奇心と心配で扉を開けてしまう。そこには、自分の羽を抜く鶴の姿・・・。そして、鶴は悲しそうに去っていく」

「約束は守らないと・・・っていう日本らしい話だよね。」と私は相槌を打つ。

「ま、そうなんだけどね、俺がいいたいのは鶴の心情なわけよ。」

 いつも、アホなことしかいわない荒木がめずらしく真面目な顔でいうので私は手を止めて

 彼を見た。

「鶴はさ、賭けたと思うんだよ。

 鶴は多分、命ををなげうって、恩返しをする覚悟だった。だって正体がばれなければ、そのまま鶴は死んだだろ?」彼は続けた。

「だから、自分の命がつきるのが先か、正体がばれるのが先か賭けた。」

 機を織りながら死ねたら自分の勝ちだったのだ。

「最後、悲しそうに去っていくのは、賭に負けたからだと思うんだよね。」

 ちょっと、いい話だと思ってしまった自分を押さえて私は冷たく言ってやる。

「どうしたの?なんか悪いもの食べたの?」

 あからさまにへこむ荒木を見てちょっと罪悪感が沸き上がったけど、無視。

「でも、ま、荒木みたいに分かってくれる奴がいるなら鶴も幸せだよ。」

 今度は、嬉しそうな顔をする荒木を横目に最後の一羽を彼の目の前において、私は教室を出た。

 

 

 

 

  「  」

 

 

 

 

 

 

 日本中の恋人たちが、愛を囁きあう聖なる日、鶴を手に固まる一人の少年がいた。

 彼も鶴と同じように賭をした。

 鶴のように命を賭けたわけではないけれど、それでも2学期間死にものぐるいで勉強した。 賭で手に入れたのは、クリスマスをどんな形であれ彼女と過ごすこと。

 千羽鶴なんて嘘に決まっている。

 でも、サンタクロースは彼におまけをくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私も」


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― 新着の感想 ―
[一言] どうもはじめまして、春功といいます。私も物書きの端くれです。 鶴の恩返しの解釈がおもしろいですね、千羽鶴を何で折らせるのかとつながっていてよかったと思います。 しかもなぜクリスマスなのかと…
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