屋敷の客人達
遅れながら申し訳ない
stage:トリスタの屋敷
side鋼
「それで? お前はここで何をしてるんだ?」
俺がそう尋ねると、のじゃロリババアが快活に言った。
「花火を見に来たんじゃ!」
なに言ってんだこのババア。花火は夏だぞ? 夏にあるんだぞ?
今は冬だ。季節考えろ!
「無論、我とて今が冬で花火大会がないことは分かっておるのじゃ。だがしかし! ここにはあやつがおるであろう?」
「トリスタか…」
「のじゃ」
そう言えばトリスタは花火が大好きで、花火をよく作っている。
のじゃロリババアはきっとそのことを言っているのだろう。
「この前、トマト農園で会ったときにトリスタがな…この冬の季節にしか観られない特殊な花火があると言っておったんじゃ。我はそれが見たくて見たくてのぅ。トマトをお裾分けするついでにここに来たんじゃよ」
「なるほどな…」
冬にしか観られない特殊な花火…か。
果たしてそんな花火が存在するのだろうか?
花火は花火な気もするが…。
いや、あいつのことだ。恐らく嘘は言うまい。
きっとその花火はまともな花火じゃないだろう。
「一体どんな花火なのかの? 楽しみじゃ」
「だからって、部屋でそんな格好して待つなよ」
「ほんの悪戯じゃ。それくらいよかろう?」
「危うく大怪我するところ…と言いたいがまぁ、あいつだしなぁ…何とかするか…」
「分かってもらえたようで何よりなのじゃ」
ああ、そうだ。
「ホルルト。悪いがこの部屋から出てくれ。病人がいるんだ」
「うん? ああ、その背中にいる奴がそうなのかの? 分かったのじゃ」
「俺は寝かせてからファンプを呼んでくる。そのついでにお前もついてこい。どうせ暇なんだろう?」
「…確かに暇じゃの。少し心外じゃが」
そうと決まればささっとやるか。
俺は布団を出して、見神を寝かせた。
見神はうなされているようで、顔が青くなっていた。
これは思ったより危ないかもしれん。
「ホルルト。ヒール使えるか?」
「使えん」
「なら、仕方ないシルフィを呼んでくるか」
俺達は二階を降り、シルフィのいる保管室に向かった。
保管室は倉庫とは違い、大切なものや危険なもの、または特殊な保管方法を用いるものを保管する部屋だ。薬なんかは特にそうで、薬の保管方法に詳しいシルフィが管理している。
「シルフィ、いるか?」
「ホルルト参上なのじゃー! 馳走を振る舞うがいいぞ?」
「調子に乗るな」ポコッ
「いたー! 鋼が我の頭を馬鹿にしたのじゃー!」
返事がない。
何処かに出掛けているのか?
「薬草でも調達しに行ったのか?」
「トマトならたくさんあるからの」
「トマトは薬にならんだろう…」
「何を言う! トマトは栄養満点なのじゃぞ!?」
「はいはい」
「返事がテキトーではないのかー?」
どうでもいいだろう。
それよりもシルフィがいないということはトリスタがこの部屋にいないことと関係あるのか。
…逃げたなら、サンドバックだな。
そんな風に制裁を決めながら、食堂へ向かう。
食堂にはファンプがいて、小魚を握り潰していた。
「鋼、おかえり」
「ただいま。…ところで、魚なんて握りつぶしてなにしてるんだ?」
「えっと…今日は魚のハンバーグを作るとシルフィ姉さんが言っていたので、骨ごと砕いてハンバーグの種に混ぜてるんですよ」
「そうか「なるほどのぅ!」」
…シルフィも上手いことを考えるもんだ。
怪力があるならこういう風に料理することも可能って訳か。
だが、いくら力があるからと言っても所詮は素手だ。素手で魚の骨を砕こうなんてしたらまず刺さって血が出るはず。
鍛えている俺やあの馬鹿はそのくらいじゃ刺さりもしないが、ファンプは怪力であることを除けばただの女の子だ。
それなのに、ファンプに血が出ている気配はないし怪我を我慢しているようにも見えない。
…つまり防御強化支援魔法を誰かがファンプにかけたらしい。
支援魔法が使える魔法使いはこの屋敷には俺が記憶している限りではシルフィ以外にはいない。
だが、シルフィが使う支援魔法はエルフ特有の精霊の力を用いて使う精霊魔法だ。
シルフィは風の精霊であるシルフと水の精霊ウンディーネしか
契約していないので、支援魔法は速度を上げる『ステップウィンド』と体力を徐々に回復させる『ポーションベール』だけで、防御能力を上げる土の精霊ノームとは契約していないはずだ。
これはつまりどういうことかと言うと、普段屋敷にいる連中以外の人物がこの屋敷に来てファンプにエンチャントをかけたということだ。
「ファンプ、ここに俺らとシルフィ以外に誰か来たか?」
「えっと…見掛けてません、けど」
それがどうかしたんですか、とファンプは魚を握り潰しながら頭に疑問符を浮かべながら尋ねてきた。
気付いていないのか?
それとも、俺の推測に何か穴があるのか?
穴があるとするなら、それはなんだ?
1、ファンプがいつのまにか鬼の能力を使いこなしていた。
2、シルフィが知らない間にノームと契約していた。
3、トリスタが魚に何か細工をした
4、他の誰かがファンプにエンチャントをかけた
5、それ以外
1と2は論外だな。
ファンプは鬼の能力を使うことを嫌がるし、シルフィはそういう大事なことはちゃんと言ってくれる。
3は無くもないが、今日は当番じゃないし、魚に細工をしたからといってファンプがそれに気付かないはずがない。だってトリスタの馬鹿は悪戯好き。相手の反応を見たがり悪戯をすることからファンプがトリスタが来たことを言わないはずがない。
「のぅ」
「なんだ…」
「この屋敷に猫なんていたかのぅ?」
「あ?」
猫?
どういう意味だ?
いや、まさか…。
俺はホルルトが見ている方向を振り返る。
すると、そこには縁側で寝転がる一匹の白い猫の後ろ姿があった。
そいつはまるで雪のように汚れを知らない真っ白な毛並みを持っており、丁寧なブラッシングでもされていたのか毛並みが非常に良かった。
それだけじゃない。この猫、何処か高貴なオーラを放ってるのか何処か凛々しい感じがする。
ん…? よく見たらあいつ、猫じゃない。猫又だ。尻尾が2つもある。
トリスタのアホが…珍しいからって何でも屋敷に上げてんるな。
俺が静かに怒気をあげていると、猫又が何かを感じたのかこちらを振り向き、こんなことを呟き始めた。
「ごめん、なさい…」
「…人語を解せるのか」
別にお前に怒ってるわけじゃない。
むやみやたらに屋敷にあげまくってるあのアホに怒っているだけだ。
「邪魔してるわけでもないんだろ? 好きにしてろ」
「私、邪魔…?」
「そうじゃねぇ。俺も立場的にはお前と似たようなもんだ。別にとやかく言うつもりはない。だから、夕飯食うなり縁側で寛ぐなり好きにすればいいと言っただけだ」
猫はそれを聞くと、ぷいと顔を逸らしてまた寛ぎ始めた。
それを見た俺は隣でそわそわしてる馬鹿2号の首根っこを掴みながら、部屋に戻ることにした。
部屋に戻ると、ホルルトが「我は猫じゃない!」などと言っていた。
まあ、確かに猫なら首根っこ掴まれた時点で大人しくなるもんだが、こいつは掴んだら掴んだらで暴れやがったからな。
合気を使って、抑えたが。
まだまだ書きますよ