のじゃロリババア
stage:ライトウェルの町
side鋼
「それで、何があった?」
「別に…」
「ほう…?」
目の前の馬鹿はただふて腐れているだけだった。
となれば、2階にいるのは敵じゃないな。
「2階に誰かいるよな。誰だ?」
「知らねーよ。顔隠してて分からなかったからな。たぶん声からして女の子だと思うけどな…」
「女の子、ねぇ…」
部屋にいる時点で、恐らくこいつの知り合いだと思うんだが…少し候補が多くて分からんな。
ここで、考えても埒があかんな。どうせ答えは上にあがれば自ずと分かるんだ。見神を運ぶついでに確かめてくるか。
「トリスタ。お前はシルフィんとこ行って説教受けてこい。
どうせこのあと暇なんだろ?」
「いやいや!暇じゃねぇよ!病人がいるって決まったらここは粥を作る仕事が待ってんのよ!?」
呆れた奴だな…。
こういうのはお前が身を持って知っているだろうに。
「そんな心配は無用だ。シルフィが薬作る時に合わせて薬膳料理も作るし、看病はファンプがやる。つまりお前の仕事はシルフィの説教とその罰だ」
「そ、そんな殺生なぁぁ!!!」
己の業が成した結果だろうが。
観念して罰でも受けてろバーカ。
「さて、見神を運ぶか」
ん…しょっと…。少し重いな…。
青い顔して座り込んでいる馬鹿の横を通り、俺は上へと上がる。
ぎし…ぎし…。
この屋敷も随分長くあるからな…。少し歪みが出ているな…。
2階に着き、戸を開ける。
「がぁー!」
なんか赤い被り物をしてるちっこいなんかが俺のお腹辺りで何かをしていた。
「……ああそうか」
こいつが犯人か。トリスタが驚いたとか言ったから、よほどおどろおどろしい何かと思ったが、そういやあいつ背がちっこいからな。俺では見る視点も変わるか。
「抜かったのじゃ!まさか血泥がいるのを忘れるとは!」
「…その声、トマルトか」
「誰がトマルトじゃ!?
我が名を忘れるとはいい度胸なのじゃ…血泥……」
「お前も俺の忌み名を使ってんじゃねえか。互いさまってやつだろうが」
赤い被り物…まあ、見て分かったがキラートマトの被り物をしていたのはやはりというかトマルトだった。
本名は、ホルルト・ロートモ・ヒルリアーベン。
元吸血鬼ののじゃロリババア。本人の話によると昔は大層強い吸血鬼で有名だったらしく、城1つを攻め落としたとか、ダンジョンの三つ四つ制覇したとか見栄か本当かよく分からない自慢話を聞いたことがある。
実際、このロリババアは見た目と違って洗練された技を数多く持っていて、なかなか厄介だった。
だけれど、呪いのせいかあまり吸血鬼の力が出せていないようで、トマトを食べないとすぐにぐったりする。
そう、このババアは昔、なんのポカをやらかしたのかトマトを定期的に食わないとエネルギーを補給出来なくなる「トマトの呪い」とか言う凄まじく意味不明な呪いにかかっているのだ。
その意味不明さと凄まじさは名前以上にカオスなことになっているらしく、この世界にある古代最上級の呪いよりもより難解で、より複雑で、より呪力が強いのだ。
ババアは長年生きているだけあって、解呪の術を使えるのだが、この意味不明なほどに呪力の強いこの呪いにそれが効くはずもなく、現在のような状態となっている。
まあ幸い、呪いの副産物なのか、人を食べなくてもトマトを食べれば生きていけるようにはなっているので、そこまでせっぱ詰まっている訳ではない。
ただ、そのお陰でこいつは人の血を吸わなくても生きていけるので、吸血鬼でもなんでもなくなり、この世界でたった一人の「トマトイーター」(トリスタ命名)となった。
「んで、そこでなにしてんだ?」
「つーん!」
ほう…いい度胸しているなトマルト。
俺はトマルトの頭を被り物ごと掴み、無言の圧力をかけた。
「はは!アイアンクローなどこの鉄よりも堅く木より軽いジューラル素材のトマトフェイスを被った今の我に効くはずがなかろう!」
「…………」みしみし
「…あれ?みしみし音が聞こえてくるのじゃ?」
「…………ぎりり」バキッ!
「ギャーー!!こいつ人間の癖に握力だけでトマトフェイスを握り潰しやがったのじゃーー!?!?」
「…………」
「分かった!分かったのじゃっ!!離してくりゃれー!」
俺は頭から手を退けてやった。
すると見えてきたのは、赤い髪をした少女の姿だった。
可愛いとかどうかは俺ではよく分からないが、俺からすれば、別に可愛いげのくそもないただのその辺にいそうなワガママ少女Aというのが本音なので、赤い頭でちっこい体という以外の外見はどうでもいい。
「なんかものすごく雑な紹介をされた気がするのじゃーー!!!」
「うるさいな…」
「うるさいとはなんなのじゃ!? というかお主、我の体に興味ないとかあり得ないのじゃよ!?」
「どこがだ?」
というか、あっても問題しかないような気もするが?
「こう、ロリ特有の赤くて大きい濡れた瞳が無垢で可愛いとか」
「お前、無垢どころか欲まみれだよな」
「何を言う?我のどの辺がそんな風に見えるのじゃ?頭がおかしいのではないか?きらきら」
「トマトに対する食欲全開なところを見てどの辺が欲がないと?」
「無邪気な子供の姿ではないか!?」
「自分で言うか?」
まあ、欲まみれとは言ったが、食欲が凄いだけで、他はそれほどないのも事実と言えば事実だがな。
逆に言えばそれだけ呪いの効果が凄いとも言えるわけなのだが。
ふと、ババアを見ると目を半分にして何かを疑うようにこちらを睨んでいた。
「お主…女の子に興味あるのか?」
「突然だな」
「突然でもなんでもいいから答えるのじゃ」
というか質問の意味が分からないのだが。
なんだ「女の子に興味があるのか」って?
大雑把過ぎるだろう。
それをババアに伝えると、ババアが俺にしか聞こえないことを言い出した。
「お主、女の子に「ピー」して「ズキューン!」したいとか、その辺の腐れ親父みたいに「バキューン!」して、「どかーん!」するとかないのか?」
「ない」
「即答!? お主、性欲ないとか人として終わり過ぎるじゃろうのじゃ!?」
「というか性欲ってなんだ?」
「この男…こんな生業して性欲も知らないとか我より無垢だったとかあり得ないのじゃ…」
ババアが何故か戦慄してやがる。今のどの辺にそんな風に思うところがあったんだ?
というか、「ピー」して「ズキューン」するって意味あるのか?
「お主…今までそんな場面に出会ったこととかなかったのか…?」
「いやあったが」
「見てたよこの男!なのに何故!?」
「興味ないから」
「終わった。この男、もう17になるのにこれとか終わってるのじゃ」
というかさっきから終わってる終わってるって…俺まだ生きているんだがな…。
「意味が分からん」
「お主の方が分からんのじゃー!!!」
ああ、今思い出したんだがそう言えば俺病人を背負っているんだったな。すっかり忘れていた。
俺は適当にババアを退けて、見神を布団に寝かせた。
うるさくして悪かったな。
のじゃのじゃうるさいので、とりあえず俺はアイアンクローをもう一回した。