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美しき炎の魅技  作者: ナレコ
3/14

始まり

少し早いけど投稿です。

それは冬のことだった。


stage:ゴブリンの巣

side流瀬 鋼


「フッ!」

「ギギャー!」


薪を割るようにゴブリンを真っ二つにし、今日のゴブリン退治が終わった。

俺は流瀬 鋼。名も氏もあるが、そこら辺の一般冒険者と何ら変わり様のない普通の剣士だ。


しかし、今日は寒いな…。冬が近いからだろうか?

吐く息が白く、激しい戦闘で汗ばんだ体を急速に冷え込ませてくる。

俺は汗を腕で適当に拭って、木刀を鞘に納めた。


…今も疑問に思うのだが、この木刀…少し切れ味が良すぎる気がする。

過去に普通ならとっくに折れても仕方ないくらいに乱暴に扱ったこともあるが、ヒビ1つ入りもしない。

これは本当に木刀なのか?

友人のエルフ曰く、魔剣化してるように見えるらしい。

もはや木刀じゃない何かであることは確定しているのだが…どうにも腑に落ちない。

いくら魔剣化してるといっても木刀だぞ?

以前本物の魔剣と斬りあった時真正面から叩きおるとか…もうなんなんだと思うぞ?(それが出来ると思った俺も俺で大概ではあるのだが…)


「ふーむ……考えても仕方ない、か」


何か特別なことをしてるわけでもないのに魔剣になるとかありえないとは思うが思い当たることはない。つまり、これを誰かが多分面白半分に改造やら何やらしたんだろう。

とりあえず、帰ったらトリスタを殴ろう。

俺はそう心に決めて帰路に着くことにした。





stage:ライトウェルの町

sideトリスタ


「ぶるっ!」

「どうした、トリスタ?」

「いや…なんか嫌な寒気がしてな…」


隣にいる見神が突然震えた俺に疑問を思った。

俺にもよく分からない疑問なのだが、何故だろう。今日は何だか帰ったら危険な予感がする。


「見神…」

「なんだ?」

「今日、奢るからさ! 俺とオールしないか?」


見神が俺のその言葉に目をぱちくりして驚いていた。

くっ、やはり無理矢理過ぎるか…?

仕方ない、ここは俺の切り札「魅力的提案ラッシュ」を切るしかない!

俺は迷う見神の目の前でそう決断し、カッと目を見開いて提案を次々と切り出した!


「例えば、あのラーメン屋の裏手にある広場で『我が必殺の厨二ターム』百連発対決とか!」

「…俺、トリスタじゃないからそんなに必殺技の名前思い付かないんだが」

「ならば! 冒険者ギルドのコワモテ世話好き親父ザジンさんと夜の男のロマン語りとか!」

「ザジンの親父さんは…確か昨日ウォルデ坑道の調査に行ったんじゃなかったか?」

「くぅ! なれば町外れにずっと存在している今にも壊れそうな廃墟の肝試しとか!」

「ところで、トリスタ。奢るとか言ってたけど、今までの提案に奢る要素あったか?」

「……途中で夜食の買い食いをどこかでしようとは思ってたんだぜ?」


見神は何処か呆れたような目をして、1つ溜め息を吐いた。

やっぱり露骨すぎたかなぁ…。流石に一人で夜遊びするのは寂しいから一緒にいたいんだけどなぁ…。

すると見神が困った顔をした。


「…そんな情けない顔するな」

「なにゅあ!? むぐりょしゅとぉん!?」

「…落ち着け。解読不能言語になってるぞ」

「おぅふ…。すまん」


動揺し過ぎて自分でも何言ってるか分からない言葉が出ちまったぜ。

てか、本当に何を言いたかったんだ俺は。

俺が自分に自己嫌悪して頭を抱えていると、見神が突然立ち止まった。

どうしたんだ?


「冷たい…」

「へ? あぁ、雪か」

「これは雪、というのか」

「なんだ見神。お前雪を知らないのか?」

「あ、いや…。もちろん俺は雪を知っていた。…本の中でだが」


そういや、見神って黒竜なんだったか?

黒竜ってことは人間で言うと貴族みてーなもんだったか。


「…見神ってまるで箱入り娘だよなー」

「それは違うぞトリスタ」

「違う?」

「ああ、俺は男だからその表現は正しくない。正しくは世間知らずというのだ」

「論点が違ったよ」

「む、違うのか?」


何も知らないことが違うのかと俺は思ったよ。

見神っていつも本読んでるから世間知らずなのを気にしてるもんだと思ってたが、この様子だと違うみてーだな。


「で、本には雪のことをなんて書いてあったんだ? もしかして、『空を見ると白いケセランパセランみたいな、ふわふわしていて、冷たい不思議な何かが降っていた』みたいなことでも書いてあったのか?」

「期待しているようで悪いが、本には『冷たい粒のようなもの』とだけ書いてあったよ。…それにしても随分とファンタジックなことを言うんだな?」

「ケセランパセランに突っ込まないってことはケセランパセランは分かるんだな…。順番逆だろ」

「雪は当たり前にそこに存在しているからだろうな。実物を見たほうが速いからそこまで具体的にしなくても分かるということなのだろう」

「そーですかー」


俺は興味ないという風にそう一人呟き、顔を逸らした。

見神のやつ、雪を初めて見るからかスッゲー興味津々とした顔して雪に触れてやがる。

見神はああなると頑固だからな。体当たりしても逆にはね飛ばされて動きそうにねぇや。

なんか面白くないぜ…。


ちぇーと口をすぼめながら、何か面白いものがないかと辺りを見渡す。

あー、なんかないのー!?

そんなことを思っていたら突然「カンカン!」という音がした。


「あ、なんだ?」


この音、なんか聞ぃーたことあるぞ。

確かこれは…。


「火事だー!火事が起こったぞー!」

「キャー!」

「うわー!?」


「火事…って、マジかよ!」

俺は急いで見神の肩を叩いた。


「見神見神見神!」

「ん、なんだ? 今、観察に忙しいのだが」

「そんなの後でも見れるだろ!? それより火事だ! 助けに行くぞ!」

「火事…?」


あぁ! なんかこう立ち止まってると堪らなくなってきた!

俺は昔からじっと出来ないんだよ!


「見神、無理ならシルフィか雪でもいいから呼んできてくれ!俺は助けに行ってくる!」

「……」


何故か沈黙する見神。一体こいつはどうしたんだ?

だが、そんなこと今は気にしてる場合じゃねえ。

俺は近くの家の屋根に登ると煙を探す。

どこだどこだどこだ!?

目を皿のようにして首を回して、必死に煙を探す。

少しすると黒いボヤが見えた。


「あそこか!」


俺はそこを目指して走った。

距離は目算にして20メートル。意外と近いところにあった。 こんなに近いのに気づかなかったとは情けない。

だが、これなら助けるのも速く出来る!


俺は屋根から降りてゴウゴウと燃え盛る建物に近付いた。

近付くにつれ、温度が急速に上がっていき、このままではとてもじゃないが容易には近付けなくなっていた。

俺は何かないかと軽く近くを見渡すと、近くにギルドお抱えの魔法使い達がいて、土魔法や水魔法で火消しを行っていた。


「助けに来たぞ!中に人はいるのか!?」

「トリスタさんですか!?今、『ラーナーズ』の皆さんが中で一般人の三人を救出しているところなんです!」

「あの『お助けラーナーズ』の奴らか!」

「はい!」


お助けラーナーズはこのライトウェルの町で冒険初心者や見習いの連中の手助けとかしている心優しきクランの奴らだ。普段は町の自警団みたいなことや道場みたいなことをしているのだが、まさかそんな奴らが俺より先に現場にいるとは…!

流石は熟練の冒険者だな! 何処かの私兵団とは天と地ほどの差があるぜ!


「いつからあいつらが入った?」

「それが…その警報があった時より前から戻ってきてないんです」

「…なに?」


それはおかしい。人数が分かっているということは探知のエデルデがいるはずだ。となると、場所も分かっているはず…。警報があったときから約1分半は経っているはず。それなのに、まだ一人も助け出せてないということは……。


「放火魔が中にいやがるのか、それとも助けたくても助けられない状態なのか……」


そうだとしたらヤバイな…。この様子だと早くも家屋が崩壊しそうだ。

つまり、時間がない。

俺は即決した。


「…俺が行く。水魔法をくれ」

「無茶ですよ! 熟練の冒険者の皆さんが無理なんですよ!」

「どっちみちこのままじゃあのお人好しのあいつらも死んじまうだろうがっ! 呼び戻すついでに手助けしてくる!」

「っ~~!! この頑固者~!! もう知らないですからね! スプラッシュ!」


バシャ!

バケツをひっくり返したような水魔法が俺に浴びせられ俺の体が急速に冷える。よし、これなら行ける!


「すぐに戻ってくる!」

「絶対戻ってくださいよぉー!」


俺は息を吸って止めると建物の中へと突撃した。

中は外とは比べ物にならないほど熱くなっていた。

ところどころに炎が出て、天井を焦がし、家屋を支える支柱も今にも壊れそうなほど燃やされていた。

これほど激しく燃えるってことはここは木造建築の家屋か。

俺は周りを見る。


「ビンゴ!そこか!」


破壊された壁を見て、ホッとした。距離が分かってるからな。あいつらのことだから最短ルートで行くと信じてたぜ!

俺はニッと笑みを浮かべてダッシュした。


「…っ!……だ!」

「……。……!」


しばらくすると声が聞こえてきた。

ラーナーズの馬鹿野郎どもの声だ。


「おい! どうした!?」

「その声、トリスタっすか!?」

「お前か! いいところに来た!」


現場に行くとラーナーズのおやっさんとひょろ長男のエデルデがいた。

俺は周りを見る。


「こいつは……」

「下手に動かしたらヤバかったからどうしようか悩んでたんだ」


おやっさんが言った通りの現状がそこにあった。

ちっ、こりゃ確かに下手に動かせねぇな。


瓦礫の下に挟まって動けない少女とその父親らしき人物が。そして、瓦礫の上で不安定にぐらぐら揺れる支柱の上でタンスに挟まれている母親らしき人物がいた。

はっきり言ってどうやってこうなったのかが知りたい。


「上にいる母親を助けようとするとタンスの上に積まれた瓦礫が落ちて下にいる二人が死んでしまう」

「逆に下にいる二人を助ければ上にいる母親が死んでしまうっす」

「……こりゃあ、確かに面倒だな」


この二人だけではまず厳しいだろう局面だ。

というか誰がいてもどっちか捨てて助けるしかないだろうな。

だが、あいにく俺はそんなことをするつもりはないし、ここにいるこいつらもそう思わない。

だから、考える。


上にいる母親を観る。今にも死にそうで、完全に気を失っている。

下にいる二人を観る。父親の方はまだ微かに息があるのが見える。それに比べて少女の方は父親よりかははっきりとした呼吸をしている。しかし、瓦礫に潰されているからかその呼吸は苦しそうであった。

最後に周りを観る。炎が建物内を駆け巡り、一部の壁、床、天井を燃やし、ゴウゴウと燃え盛っている。そのお陰で内部にいる俺達の空気も少なく、結構苦しい。しかし、火事特有の黒い煙はここにはなく、その分辺りをよく見渡せた。


「……俺に作戦がある。お前らは下の二人に瓦礫が落ちないように注意してくれ。俺が母親を助ける」

「…なにするつもりだ?」

「俺にはお前らみたいな馬鹿力はない。だから頭と自分のテクニック信じて全員助けるだけだ」


本当はここに鋼がいたら俺が下でガンバってもよかった。だが、いないやつをこの場に求めても仕方ない。

俺は手早く仕掛けるものを仕掛けて、準備をする。

すると、横から「アンタ、よくそんなものここに持ってこれたな」とか「それ、トリスタさんかそれ以上の人じゃないと自分はこの作戦に賛成できなかったっすよ…」とかうるさかったが、何とか終わった。


「じゃ、始めるぞ」

「ああ、やってくれ」

「なるようになれっす!」


俺は三角跳びで、母親の近くまで飛んだ!

イメージ通り行くかどうかは8割勝算あると見たが行けるかどうかだ。

さぁ、見晒せ!


俺は左手に持っていた石を柱へと投げる。

タイミングはどうだ?

俺が母親のすぐそばの瓦礫の下に足を付けた。


ドカン!


柱が突然爆発し、くの字に折れる。

俺達に緊張が走る。

ここからはスピード勝負だ!

俺は素早く母親を抱えて横に飛び、降り落ちてくる瓦礫に注意を払いながら、下にいる四人を見る。


おやっさんは二人の一般人の頭を守るように低い姿勢で盾を構え、エデルデがもしもの時に備えて剣を構えた。

そこに大量の瓦礫が落ちてくる。


「スタート!」

「!」「!」

ドドドドォン!!!


俺が出した合図と共に一般人の二人の上にある瓦礫と支柱の上にあった瓦礫が爆発する。

俺が仕掛けたのは2つの時限式爆弾だ。それを支柱と落下してきたときに四人を潰すルートにあった瓦礫の辺りに設置した。爆弾はそれなりに火薬の量や密度を調整してある程度威力を絞った。

本当は上手く瓦礫を全部吹っ飛ばすように計算して準備をしたかったが、あいにく爆弾の数が足りなかった。そこで、そこにおやっさんの持ってる盾の防御能力を組み合わせて上手く瓦礫が一般人の二人とラーナーズの二人から守れるように計算したのだ。


とはいえ、安心は出来ない。

実際どうなるかなんて誰にも分からないからだ。

だが、予想外のことがなければ、まず大丈夫だと思う。

そこだけは自信を持ってる。だから、8割。


俺はあいつらの無事を信じて、とりあえず母親の様子を見た。

少し肌が煤で汚れているがとりあえず、大きな怪我とかはなさそうだ。

気を失っているのは酸欠だからだと推測する。

呼吸はしてるので、とりあえず一安心だな。


ガラッ!天井が崩れて瓦礫が落ちてきた。

「おっと!あぶなっ!」


ささっと母親を回収して避けてみせるが、こいつは長くここにはいられなさそうだな…。

あっちがどうなったか確認してさっさとここ出るか。


「おーい!おやっさん!エデルデー!無事かー!?」

「…大丈夫だー!それよりちょっと手伝ってくれー!」

「ちょっ!親父!これ無理無理無理!きついっす!」

「男が弱音吐いてんじゃねぇ!このくらいどうにかせい!」


おやっさんのいた位置から推測するに…あの瓦礫の下か。

ああ、つまりそういうことか。盾で支える瓦礫と親子二人を下敷きにしている瓦礫を同時にどうにか出来ないのか。

エデルデもパワーあるはずなんだが…どうにもならなかったのか。

しゃあない。時間もないし手伝うか。


俺は上にある瓦礫を適当に蹴り飛ばしたり退かしたりしながら適当に手伝った。

おやっさんの火事場の馬鹿力があれば瓦礫を一気にぶっ飛ばすことも出来るので、俺はまず、おやっさんの動きを封じる邪魔くさい瓦礫を退かした。

案の定、おやっさんを解放させたら、一気に進んだ。

泣き言がうるさいエデルデの上にあった瓦礫を木っ端微塵に弾き飛ばし、親子二人を挟む瓦礫をテコの力で何とか救出することに成功した。


「よし、ここから脱出するぞ!」

「やっと終わりっすか!」

「お前は父親を運べ。俺が殿をやる」

「おいおい…それだと俺が女の子と母親を運ぶのか?」

「流石にトリスタにそこまでさせるわけにはいかん。娘は俺が運ぶ」

「えー!?俺でもいいんでしょー!?」

「馬鹿野郎。お前なんかに女を渡したら危なくてやれん。ここは配慮出来る者が出来る特権だ!いいからさっさと行け!」

「ひぃやー!分かりましたっすよー!!!」


…どうでもいいが、脱出するときにエデルデがうざかった。

そして、何とか脱出したのだった。





「遅いですよー!トリスタさん!」

「わりぃ!ちともたついた!」

「私、屋根が崩壊したとき死んだかと思って蒼くなってたんですからね!」


ギルドの魔法使いさんがめっちゃ心配してた。

振り返れば、そこは言っていた通りに屋根が崩落して潰れた家屋があった。

どうやらかなり危なかったらしい。

俺は心で思った。冒険してるわけでもないのに気が付かない内に死にそうな目に遭っていたのかと。

しばらくの間、俺の乾いた笑みが続いた。

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