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美しき炎の魅技  作者: ナレコ
11/14

お礼に来ました

待たせた!

というか遅刻した!


悪いのはこの季節にイベント重なりすぎなことだ!


stageトリスタの屋敷

side流瀬 鋼


すっかり日も暮れ、月が空から顔を覗かせるような時間に俺はいつものように屋敷の門前で、体を休めていた。


夏の夜はうっかりへそを出して寝ると風邪を引くらしいが、冬の夜はそんなうっかりがなくとも万全の態勢で過ごさなければ馬鹿でも風邪を引く。


それくらいいくら世間知らずな俺でも分かろうと言うものだ。

ただ俺はこの世界に産まれてからと言うものの風邪を経験したことがない。

いや、恐らくは風邪になったという意識すらなく、日々を過ごしていたのかもしれない。

馬鹿は風邪を引かないなどと雲のように掴めない話を聞くが、馬鹿が風邪を引かないのではなく、馬鹿が風邪を知らないだけもしくは自覚していないだけなのではないか。


それほどまでに俺の人生というのは壮絶で人から見れば非日常の連続だった。

だからなのか、今は昔よりもそう強く自覚せざる負えない。


「…手足が少し鈍ってきたな」


前はジャケットを着込んでいたため、こんな夜をゆっくり過ごすのもそれほどきつくはなかった。

だが、今はジャケットを昼間に出会った少女にあげたためすぐに俺が持つ熱を奪ってくる。


少し体をほぐす必要があるか。

俺は緩んだ意識を一度引き締め、少しだけ体操をした。

体操とは言えそれほど体を動かす類いのものではなく、動作自体はゆっくりとしたそうまるで太極拳のような体操だ。


今は夜だ。だから、それほど音が出る運動はしないよう自粛している。

俺がそんな風に夜を過ごしていると、ふと何者かが近付いてくる気配がした。


(こんな夜更けに誰だ?)


気配がする方に眼を向けると、そこには昼間に出会った金髪頭の少女の姿があった。

出会った当初とは違って、俺のジャケットを上に着ていた。

彼女は確か三日月とか言っただろうか。

こんな夜更けに何をしているんだ?


少女は例のごとくなにも考えていないようにも見える無表情な顔のまま俺のいる方へと顔を向けた。

すると、足取りが少しだけだが迷いがなくなり、こちらの方へとまっすぐ歩き出した。


「…こんばんは」

「……」


無表情な彼女がいきなり挨拶をした。

俺は何かあるのかと無言をもって会話を促す。

すると彼女は、ぼんやりとした表情のまま俺の顔を見詰める。


そうして見詰めたまま少しの時間が流れた。


さすがに無言でこうも見詰められていると察することもある。

何かしら発言を求めているようだ。

ならば用件を尋ねようか。


「…何か用か?」


彼女はそのまま寝ているんじゃないかと思うようなぼやけ眼で返事を返した。


「…あなたに『ありがとう』と言うべきだと、ギルドの人に言われまして」

「そうか」


ギルドの人に言われて、か。

別にお礼をするくらい別に構わないのだが…何故こんな夜更けにわざわざこいつは来たんだ?

少し疑問に思った。


「ありがとう」


ふと見ると、あれほど無表情だった彼女が満面の笑顔でお礼を述べていた。

意外すぎて少しびっくりした。


「…おう」

「ん…」


さっきので、気が済んだのか彼女はこちらに背を向けてまた何処かへと歩いていった。

なんなのだろうか。

俺がしばらく彼女を見ていると、彼女が何かに気付いたのかのように動きを止めた。

そして、ぐるりとこちらに顔を向けた。


「私、寝る場所、ない」

「…そうか」

「心当たり、期待…したい」


急にカタコトになったな。

しかし、寝る場所がない、か。


「野宿…」

「こんな幼い女の子が一人で野宿なんて危ないよ!」

「急に口調が変わったな!」

「期待、出来ない?」

「…できない」


馬鹿がいくら勝手に家にほいほいと見知らぬ人を入れていようが家主でもない俺が女の子を上げていいはずがない。

少し迷ったが、いいはずがない。

しかし、三日月は俺のこの返事になにかを感じ取ったのか


「…あるとみた」


このときばかりは三日月の無表情な顔がしたり顔をしているかのように錯覚した。


「…聞こえなかったのか? 俺に心当たりは「…あるとみた」ない」


何を考えているのか分からない無表情な顔なのにな…。

こいつ、眼だけ獲物を見つけたとでもいうかのような意思を眼に宿していやがる!


なんだ…この気配は…まさか!

俺はに気付くと俺は奴から言い知れないプレッシャーが吹き出ているのに気付いた。

これはいつの日か戦ったあいつに似ている。

昔、戦った地味にこっちの体力と集中力を切らせてくる手ばかりを使ってくるダークエルフのアベンジストーカーにも似たプレッシャーに似ている。

よほど恨みでもあったのか俺との戦力差がかなりあったというのに、僅かな勝率を信じて1ヶ月にも及ぶ耐久戦を仕掛けてきやがった。

もはや執念の一言に尽きる。


そんな思い出すのも嫌になるプレッシャーと似た執念のオーラを目の前の奴から感じる訳なのだが…何故こうなった。

まったく不幸だ。

そして、さらに不幸なことがある。


「…案内、よろしく」

「しないからな」

「…よろしく」

「しない」

「こんなに可愛い美少女を外に放り出すというの? 信じられない!」

「だから何処で覚えたんだそのネタ発言!」


この時折繰り出されるトリスタのふざけたネタ発言にも似たこの残念な口調だ。

この見た目ぼんやり眼の少女三日月は、通常時はその外見に合った口調で話をするのだが時折、はっきりとした口調でふざけた発言をかましてくるのだ。


こんな発言を聞いていると昔のレトアとの会話を思い出して疲れが出てくる。


「私、面白い?」


そして、三日月は何を考えているのかそんな発言をしてきた。

この発言に対して何か答えると漏れなく恐ろしく疲れてくる会話になりそうな予感がする。


答えたくねぇ…。

そうは言っても相手は外見10歳くらいの少女だ。

年長者として…いや、守り手として恐れるわけにはいかない。

いくら苦手な相手だからと言ってこの程度で弱音を吐くわけにもいかない。

俺は頭痛がしながらも、答える。


「…たぶん面白いんじゃないか?」

「真面目に答えて」


眼が据わっていやがる。

どうやら俺は、彼女の怒りに触れたようだ。

この殺気にも似た気配は、俺が真面目に答えないとここで戦うはめになりそうだな…。

仕方ないか。


「ならはっきり言うが…面白くない」

「何故?」


僅かな間もなく即答で疑問を挟んできた。

俺が思っているよりも彼女は気にしているようだった。

これは適当には答えられそうにないな。


「じゃあ逆にお前に問うが…面白いってなんだ?」

「興味をそそられて心が引かれるさま。つい笑いたくなるさま。心が晴れ晴れするさま。快く楽しいなど」


これも即答だった。

だが、どうにもその答えはずれている。

ずれているというか彼女の解答じゃない。これはまるで辞書を引いて解答したものみたいな解答だった。

的を得ているようで得ていない。


「俺はそう尋ねたわけじゃないんだがな…」

「どう尋ねた、ですか?」


口調がはっきりしてきたな。

うっすらとだが敵意も感じてくる。

彼女にとっては俺など赤の他人のはずなのに、何故本気で俺の解答を探そうとするのか。

俺はそこで少し構えをとり集中した。


「お前が言う面白いって、その中のどれだ?」

「私、興味…引く?」


それ、答えたらトリスタやシルフィが騒ぎそうで嫌なんだが。

しかし、今はいない。ので、そのまま真剣に答える。


「お前に興味は湧かないな」

「そう…ですか…」


三日月は顔をうつむかせ、顔を隠した。

三日月は感情の起伏を全く見せないため、何を考えているのか分からない。

だが、俺には彼女は何処か悲しそうに思えた。


「じゃぁーあーっ♪とびっっっっきりっ、可愛くなりますっ♪それはもうたまらないくらいにロリロリ、と♪」

「誰だお前!?」


前言撤回。こいつ、懲りてねぇ。

むしろ、俺に挑戦してきてやがる。

というか、時間が経てば経つほど口調が崩壊してるというか遠慮が無くなってないか?


嫌な予感がする。

三日月は何処か瞳をキラーンと光らせながら、こちらへぐいぐいと近付いてきた。


「幼い女の子、可愛くありませんか? 興味出ませんか?」

「興味ない」

「貴方より大きなますたぁは、可愛い女の子が大好きだって叫んでた」

「それ俺関係ないよな?」

「…大丈夫。ますたぁ、パンケーキを心から愛しているだけ。ただのますたぁです」

「心から愛してるのはたぶんパンケーキだけじゃないよな?」


最近、忘れられているような気がしたからなのだろうか。

ここぞというところで自分をアピールしてきたぞ。

だが、俺が戦慄を感じている時に三日月のフィーバータイムは終わったようだった。


「…ふぅ。交渉終わり」

「今の交渉だったのか?」


何処か満足気に見えるその無表情な顔に俺は疲れが出た。

俺にはこいつが理解できない。


「私、泊まる場所、ない」

「俺は紹介しないぞ」

「…いい。勝手に泊まる」

「は?」


なんだその答え。

泊まる場所ないんだよな?

じゃあ、何処に泊まるつもり…ってお前なんでこっちに近付いてくる?


「おい、なんでこっちに来るんだ?」

「…よろ」


会話をするのも面倒なのか俺の1メートル隣で座り込みやがった。


「よろじゃ意味が分からねぇよ。おい、待て!」

「ぐぅ…」

「寝るな!」


まるで物置に置かれた人形のように座り込んで寝てやがる。

まだ冬だって言うのにこいつは…!


「はぁ…仕方ないな…」

「すぅ…すぅ…」


決してこいつに興味があるわけではないし、別にこいつの面倒を見るわけでもない。

だが、俺にもある程度の常識というものがある。


少し癪だが、彼女の言う通りただの小さな子供を外に放り出す悪識は俺にはない。

とは言え、何処の者ともしれぬ彼女を俺の独断で屋敷に入れるわけにもいかない。


だからなのだろうか。

こいつは俺を勝手に試して、信用しやがった。


どんな度胸してるのか知らないが、ジャケットやったくらいでこんな知らない男の隣で寝ようだなんて普通考えねぇ。

一体こいつのますたぁとやらはどういう教育をこいつに施したのか分からないが…。

案外、大物になるかもしれないな。

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