その男には気をつけろ。
俺はこの、心を読む。
不思議なメフィストフェレスと名乗るサラリーマンのオッサンに心を許した訳ではない。
むしろ…訝しげな気持ちでオッサンを観察している位だ。
俺達二人はファミレスの中央の、通りを窓越しに眺めるツインのテーブルに着いた。
間髪を入れず、ウェイトレスがオーダーを取りに来た。
オッサンは、すかさず
『ドリンクバーを二人分…』と注文した。
俺の意見は聞か無いのか?と
訊ねてみたかったが…
どうせ、勇治さんにボコられて、口の中を切ってる今は、ドリンク以外の物を口に入れれば滲みるだろう。
黙って俺は席を立ち
珈琲を選んだ。
オッサンはアップルティーを選び俺ら二人は元の席に座った。
トイメンに座るオッサンの目をオッサンの銀縁メガネのレンズ越しに観察していた。
目は口ほどに物を言う…
オッサンの目玉は此方にしっかりと見据える様に向けられている。
何も、企みは無さそうだ。
俺はそう…判断した。
その時…
『後藤さん?
貴方、今私の感情を読み取ろうとしましたね?
ダメですよ…瞳を見ちゃ。
人の感情を推し量るのは瞳では無いのですよ。
そういう時は眉毛付近を観察するのが正しいのです。
ほら…昔から眉根をひそめるとか眉尻が下がるとか眉をつり上げるとか言うじゃありませんか?
死相なんかも眉の間…
眉間が痩せて来ると死相が出た…とも言いますしね。
それと…私の顔からは感情を読み取る事は出来ません。
何せ私は、貴方に渡した名刺に書いて有るように…
《悪魔》ですから。』
『バッ…馬鹿な?
この世に悪魔なんて存在するのか?』
『現実に貴方の前に座ってますが?』
『なら…世界滅亡の目的に俺を使うのか?』
メフィストのオッサンは表情を綻ばせ…
ハハハ…
と笑い次に表情を引き締めこう言った。
『そんな大それた事など考えた事もありません。』
嘘をつけ!!
巷に溢れる神と悪魔の対立を軸にした小説やアニメ映画などごまんと溢れてる。
『どうやら…後藤さん…
貴方の神や悪魔に対する知識はアニメや映画から得ているようですね?』
まただ…また心を読まれた。
『それじゃ…神や悪魔はあんなものではないのか?』
『それでは、神と悪魔、ついでに仏の違いを軽くかい摘まんでお話ししましょう』
と俺に優しく話しかけ…
オッサンは一口アップルティーをすすり…
軽く舌舐めずりをした。