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メリークリスマス

作者: HERON

 今日は12月24日。クリスマスイブ。子どもは「クリスマスプレゼント何かなぁ!」とざわつき、子どもの親はそんな子どもを見て、くすりと笑う。そんな微笑ましい日に起きた、一つの温かく悲しい出来事。


 その出来事は、どこにでもありそうな一つの民家で起こった。家の中では、「今年のプレゼントは何かなぁ! ウサギのお人形さんだと嬉しいな!」とはしゃいでいる娘を父と母が微笑ましそうに見つめている。

 そして、娘が21時頃に寝静まった後、父と母でプレゼントに関する会議が始まる。


「ねぇ? 私は何も聞いてないけど、ちゃんとプレゼントの用意は出来てるの?」


 母が不安そうに父に問いかける。


「安心してくれ。買ったプレゼントは、美帆みほに見つからないように実家においてあるから今から取りに行くところだよ。そういう事だから、早速行ってくる」


 父は母に自信満々でそう言い、美帆が起きないように、そっと部屋から出た。母も、納得した様子で「いってらっしゃ〜い」と小声で父に言った。


 父は家を出た後、車で実家へと向かい、実家に着くとすぐに美帆へのクリスマスプレゼントであるウサギのぬいぐるみを車に入れ、また同じ道を戻り家へと向かう。

 だが父の心境は実家に行くときとは違い、助手席に置いてあるウサギのぬいぐるみが目に入る度に、ウサギのぬいぐるみを見て喜ぶ美帆の顔が浮かんで思わず顔がにやける。だがそれがいけなかった……

 運転中にもかかわらず、自分の世界に入り込んでしまっていたので前をちゃんと見ていなかったのだ。それが災いしたのか、意識が戻ってきたときにはもう、電柱にぶつかる寸前だった……

 父は焦って横に曲がろうとしたが、曲がる時間もなく車は電柱にぶつかってしまった。そして、父は意識を失った……


 しばらくして父の意識が戻った。だが、意識が戻った途端に、父は目を疑った。


「ここは空か!? 俺は確か電柱にぶつかった。そこまでは覚えている。だが、空に浮かんだ覚えは……」


 父が冷静になるのに時間はかかった。だが、冷静になると今の自分の状況が把握できた。自分は電柱にぶつかり死んだのだと。そう思うと涙が溢れてきた。


「俺は死んだのか……別に自分が死んだのは仕方ない。俺の不注意だ。でも、家族を残して死んだのか? 家族に何も思い出を残してやれず死んじまったのかよ。駄目だ……これじゃ駄目だ!」


 父は自分に言い聞かせるようにして、涙を流しながら叫んだ。

 その後、とにかく自分の出来る事をしてみようと考えた。もしかしたら自分の体に入り込んだら復活できるのではないか。家族はもしかしたら自分のことが見えるんじゃないか。少ない希望にかけて父は行動することを決めた。ここで自分の死に納得したら駄目なような気がしたのだ。


 父は、電柱の周りに自分の体が無いことを確認すると、この地域にある病院を見て回ることにした。これだけの重体で病院に運ばれていないわけが無い。

 父は、最も近くにある一棟の病院に入ろうとした。だが、入る前にある光景が目に入った。


 その光景は、自分の遺体を医者が遺体処置を行っていたところだった。父はその光景を見て、その病室の外に向かった。

 そこには、大粒の涙を流し悲しんでいる家族の姿があった。


香苗かなえ……美帆……」


 父は、家族の姿を優しい瞳で見つめながら、触れないとは分かってはいたが二人の頬を撫でるように手を動かした。


 その後、自分の体に何度も何度も入ろうとしたが、どれだけやってもすり抜けてしまう。父は、一つ大きなため息をついた。そして、そのまま床に座り込み独り言を呟いた。


「やっぱり駄目だよなぁ……これで中に入れたらみんな生き返ってるよ。何考えてんだろ俺。でも俺のためにこんなに悲しんでる香苗と美帆を見たら、諦めるって感情がどっかに消えちまうんだよなぁ……香苗と美帆を悲しませたまま成仏なんてできるかよ。どんな馬鹿な考えでも思いつく限り試してやる。よし、やるか!」


 父は、そう呟いた後ゆっくりと立ち上がり、生き返れそうな方法を考え始めた。

 父が頭が痛くなるくらい一生懸命に考えていると、肩に何かに触れられたような感触がした。父は幽霊なんだから触れられるわけなんかないのに……


 父はなぜだかわからないが何らかの予感を感じながら後ろを向いた。そこには、真っ白なふさふさの髭に赤い帽子と服を着たおじいさんが白い大きな袋を持ち「フォッフォッフォ」と笑いながら立っていた。その風貌は正にサンタクロースであった。


「すいません。ちょっと頭が混乱して質問の仕方が変になりますが怒らないで下さいね。あなたはもしかしてサンタクロースでしょうか……? それとも俺を連れに来た天からの使い魔でしょうか?」


 父は、その風貌が自分達が思っているサンタクロースに似ていることから思わず質問してしまった。サンタクロースらしき人物はそんな父の顔を見て、まだ「フォッフォッフォ」と笑っている。

 しばらくして笑いも止まり、サンタクロースらしき人物が静かに口を開いた。


「中々面白いことをいいよるのぉ。ワシが死神にでも見えるのかのぉ?」


 サンタクロースらしき人物は、逆に父に問い返した。


「いえ。その赤い服や帽子。そして、その白い髭のおじいさんを見て、もしかしたらサンタクロースじゃないかと思ったんです。でも、サンタクロースがこんなときに現れるのもおかしいから天からお迎えに来た使い魔かもとか思ったりもしてしまったんで質問しました」


 父は、学校の先生に今起こった状況を説明する生徒のように答えた。サンタクロースらしき人物は、やはり「フォッフォッフォ」と笑っていた。


「お迎えに来たわけじゃないから安心しなさい。ワシはいかにもサンタクロースじゃよ。ワシは君達の世界ではそんな姿をしておるんじゃな。面白いのぉ」


 サンタクロースはそう言った後、また「フォッフォッフォ」と笑った。

 サンタクロースはしばらく笑いが続いていたが、不意に笑いを止めると「君は何のお困りなのかのぉ?」と父にいきなり質問した。

 質問された父は、質問の内容を答えるよりも、まず「何で俺が困ってることがわかるんですか!?」と驚きながら答えた。


「それはワシがサンタクロースだからじゃよ。ワシでよかったら相談に乗るが、どうじゃ? ワシに話してみてはくれんかのぉ?」


 サンタクロースは冗談気に父の質問を返すと、今度は真剣な顔をして父に問いかける。


 父はサンタクロースの問いかけに首を縦に振り答えた。家族に対する思い。どうすればいいか迷っている自分。どうしても最後に家族に思い出を残してあげたいと思う自分の気持ち。全てをサンタクロースに話した。

 それに父は、今自分が心に溜め込んでいる思いを誰かに話せるとは思っていなかった。だから嬉しいのだ。自分の今の気持ちを聞いてくれる人がいることが。


「うむ……家族にのぉ。そうじゃな。残してみるか。思い出をのぉ」


 サンタクロースは、ゆっくりと考えた後そう答えた。父は、サンタクロースの答えに唖然とした後、ゆっくりと興奮が込み上げてきた。


「そんなこと出来るんですか!? でも……そんなことしてもいいんですか? 思い出を残すって事は何かが出来ないと駄目なわけですが、例えば夢に出るとか物理的に何かが触れたり出来るようになるとか……そんなこと死んだ人がしてもいいんですか?」


 父は込み上げた興奮と共に、本当にそんなことをしていいのかという不安の感情も一緒に込み上げてきた。

 サンタクロースはそんな父を見て、やはり「フォッフォッフォ」と笑う。


「気にせんでええ。ワシからのクリスマスプレゼントと思ってくれて結構じゃ」


 サンタクロースは笑いながらそう言うと、病院の中にある時計を指差してまた口を開いた。


「今の時間が23時。この世界じゃと24時に日が変わるようじゃの。今日が24日。この時計が12の針を指すと25日になるのぉ。その25日から一日だけ自由をやろう。その一日の間はいつでも死ぬ前の状態に戻れる。その一日をつかい家族に思い出をあげなさいということじゃ。ワシに何か用があったらまたワシを呼びなさい。すぐに駆けつけてやるからのぉ」


 サンタクロースが淡々と説明をすると、真剣な顔つきでサンタクロースの説明を聞いていた父の肩に手を乗せた。


「この一時間で家族に残す思い出を考えてあげなさい。ワシは君の思いに負けてプレゼントをあげたんじゃ。無駄にするでないぞ」


 サンタクロースは、父に満面の笑みでそう言うと、ゆっくりと透明になっていき姿を消した。父はその状況に驚いたが、少しして冷静さを取り戻すと、小さな声で「ありがとうございます」と呟いた。

 その後、父は考えた。今まで生きてきた中で一番頭を使ったかもしれない。受験のときより、プロポーズの言葉を考えるときより、美帆の名前を考えるときよりも……全ては父として、家族を誰よりも愛す人間として最愛の家族に残す思い出を。


 そして時は流れ、時計が12時の針を指した。それと同時に父は立ち上がった。


 まず父は自分が電柱にぶつかり死んだ場所へ戻り、何かを探し始めた。

 だが、いくら探しても父の探し物は見つからない。


「やっぱりないか……」


 父は探すのを諦め。また、別の場所へ向かう。

 その向かった先はおもちゃ屋だった。そして、父はそのおもちゃ屋の中に入り、大きなウサギのぬいぐるみを手に取った。


「あった……よかった……でも、油断は出来ないからな」


 父は一度、サンタクロースにもらった力で、生きている頃の自分の姿に戻った。久しぶりに足が地面に着くという感覚に、父は感動すら覚えた。

 だが、感動してる場合ではない。父はすぐさま店員と防犯カメラに見つからないか確認して、また幽霊の姿に戻った。すると、父が手に持っているウサギのぬいぐるみまで幽霊のように透明になった。

 そして、そのまま店を出た。


「よし! 成功だ。でも、まさか人生初めての万引きが死んでからになるとは思わなかったけど」


 その後、自分がいた病室まで戻った。だが、自分の姿も家族の姿も無かった。


「搬送されてる頃か……家族の姿を最後に一目見ときたかったけど仕方ないな」


 父はそう言うと、すぐさま自分の自宅へと向かった。そして自宅に入った後、美帆の部屋に入り、生きている頃の姿に戻った後にウサギのぬいぐるみを置いた。

 ぬいぐるみを置いた後、美帆の部屋から出て手紙と封筒とペンを探し、手紙に時間をかけて丁寧に何か書いた後、また美帆の部屋に戻り、手紙を入れた封筒をウサギのぬいぐるみのそばに置いた。


 封筒を置き終わった父は、また幽霊に戻り自宅から出た。父は自宅から出た後、少しの間じっと自宅を見つめていた。

 そのとき、寝台車が家の前に停まった。そこから死体である父が降りてきた。この後、家族と親族が自宅に来て仮通夜をするのだろう。


 父は、その姿をじっと見つめていた。そして静かにその場を立ち去った。


 父はサンタクロースと出会った場所にいた。そしてサンタクロースを呼んだ。

 しばらくすると、あのときと同じように肩に何かが触れた感触がした。父は、ゆっくりと後ろを振り返り、丁寧にお辞儀をした。


「驚かんかったか。驚く姿を見たかったのにのぉ」


 やはりサンタクロースであった。驚かなかった父を見て、少し残念そうな顔をしている。

 そして、次は何か尋ねたいことがあるような顔をして父に話しかけた。


「どうしたんじゃ? 家族へ残す思い出が思いつかんかったのかのぉ?」


 そう質問された父は、少し照れくさそうにしながら答えを返した。


「いえ。もう終わりました。ただ、ちょっといいたいことがありまして……」


 照れくさそうにしている父に、サンタは「フォッフォッフォ」と笑いながら「なんじゃ。話してみなさい」と父に言う。


「あなたにお礼を言いたかったんです。あなたのお陰で家族に自分の思いを伝えることができました。本当にありがとうございます。それと、家族がずっと幸せであるように魔法かけてくださいって、贅沢ですが二つ目のクリスマス願いをしようかなってね」


 父が照れくさそうにそう言うと、サンタクロースは、いつもの笑いなく父に言葉を発した。


「ワシにお礼なんぞ無用じゃよ。二つ目の願いのぉ。それはちとワシには叶えられん」


 サンタクロースは父にそう言った後、一呼吸おいて続けて言葉を発した。


「既に叶っとる願いをお願いしてどうするんじゃ。生きているときに愛を感じ、死んでからも愛を感じられる家族なんてそうおらん。心配せんでええ。きっと君の家族は強く幸せに生きる。ワシが言うんだから間違いなしじゃ」


 サンタクロースは、ようやくいつもの「フォッフォッフォ」という笑いを漏らした。

 父は「そう言ってくれると救われます」と言い、サンタクロースにまた静かにお辞儀をした。すると、サンタクロースが何か思いついたように父に言葉を発した。


「そうじゃ! 家族を愛してやまない君にもう一つプレゼントをやろうではないか。ちょっと待っておれ」


 そう言ったサンタクロースは、また静かに消えた。そして、10分程したらまた父の前へ戻ってきた。そして、すぐに父に話しかけた。


「ワシの手を握りなさい。いいところに連れて行ってやろう。君にとってはの話じゃがの」


 父は、何も言わずサンタクロースの手を握った。どこへ行くのかも聞かない。それは、父はサンタクロースを信頼していたからだ。サンタクロースが自分にとっていいところと言っているのだからいいところなのだ。


 そして静かに姿を消した。サンタクロース。そして、父も一緒に。


 その後、自宅では大騒ぎが起こっていた。仮通夜も終わり、美帆は自分の部屋に戻った。だがおかしい。そこには見たことも無いウサギの人形と誰からかも分からない封筒が置いてある。

 美帆は、その事を香苗に伝えた。香苗は、勘なのか運命的なものかは分からないが、封筒を慌てた様子で美帆から受け取り、すぐに封筒の封を切った。


 その封筒の中には一枚の手紙が折りたたまれて入っていた。香苗は手紙を取り出して開き目を通した。

 その手紙に香苗は驚いた。そして驚きながらも目からは自然と涙がこぼれている。


 手紙を読んで泣いている香苗を見て、美帆も何か感じたのか「ママ。私にも見せて」と、焦って香苗から手紙を受け取った。そして、それを読んだ美帆も驚いた。そして、美帆も香苗と同じように目から涙がこぼれた。


 二人はウサギのぬいぐるみとその手紙を今でも大事に大事にとってある。そして、手紙にはこう記されていた。


『こんな日にこんな事になってごめんな。聖なる日に家族を悲しませる馬鹿野郎で本当ごめん。あっ、そういえばサンタクロースに会ったんだよ俺。だから言っとくな。香苗と美帆がいつまでも幸せであるように魔法かけといてくださいって。俺の願いは香苗と美帆が幸せでいてくれることだからさ。俺のことは気にしないで元気な笑顔の香苗と美帆でいてください。笑顔の香苗と美帆が俺は好きだしさ。それに、こんなこと死んでから言うのも変だけど、俺が今まで香苗と美帆と過ごした時間。本当に幸せだった。ありがとう。じゃあ、俺はそろそろあの世へ行って香苗と美帆を見守ることにするよ。じゃあまたあの世で会おうな。香苗と美帆が幸せでありますように。メリークリスマス。  香苗と美帆を愛してやまない父より』


 そして、サンタクロースと一緒にどこかへ向かった父はというと……


「本当にいい場所に連れてきてもらったもんだ。香苗と美帆も元気にやってる。今年のクリスマスはいいクリスマスだな」


 しみじみ独り言を呟く父がいる場所は、サンタクロースのお願いで霊界が特別に用意した場所である。

 香苗と美帆の成長を観察できる場所で、本当に香苗と美帆をずっと見守ることが出来る場所なのである。


 そして、父の家族の家には毎年、香苗も知らないプレゼントが置かれているのだという。しかもそのプレゼントは、毎年のようにウサギのぬいぐるみが置かれているのだと。

 香苗も美帆も、それは父からの贈り物だと思い、大事にとってある。


 そして、父は今年もあの世から香苗と美帆に向けて言葉を呟く。

 そう。メリークリスマスと……

クリスマスということで書きました。製作に10日程かかり、今まで書いてきた小説よりも力いれたかもしれません。

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― 新着の感想 ―
[一言] 感動しました。お父さんが素敵ですね。 私もクリスマスに因んだ短編を書いたので見て下さい。
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