-98- 投げ出したくなる捜査
長い刑事生活の中では、いろいろな事件が発生する。長川がつい半月ほど前に捜査した事件がそうだった。
「あんたね。こんなとこにいられちゃ困るんだよっ! それに、臭いしさぁ~、なんとかならないのっ!?」
ビルの一角にダンボ―ルを一枚引き、浮浪者の風体を装って張り込んでいたときなど、事情を何も知らないガ―ドマンにそう言われたときなど、思わず切れかけたことがあったが、そこはそれ、グッ! と我慢したこともあった。ガードマンは、むさくるしい格好をされるのは会社の風格を下げるから困る! とでも言いたげな顔つきで長川を見た。もういいっ! と一瞬、立ち上がりかけ、私は刑事だっ! と、言おうとする口を危うく押さえた長川だった。
「どうかしたのかい?」
「いや…」
長川はそう呟いて、その場を去るのが関の山だった。このときほど投げ出したくなったことはなかった長川だ。それで逮捕できればまあ、浮かばれもするが、なんの成果もなく徒労に帰せば、腹も立ってくるというものだ。上からの命令だから仕方なかったが、フツゥ~~なら、退職届を叩きつけるところだ。だが、忍耐強い長川はそうしなかった。そんな長川に、またもや嫌な張り込みが命ぜられた。
「すまんなっ! 長川。この借りは必ず返すから頼むっ!」
課長に懇願されては仕方がない。長川は不承不承、引き受けた。張り込む先は、犯人が時折り顔を見せたというオカマ・バーだった。長川は、また投げ出したくなる捜査か…と捨て鉢になり、憂さ晴らしに輪投げでもしようと思った。
完