-96- 馬鹿馬鹿しい雑件
鳥旨署の刑事、符来度は、非番の朝、天気がよいということもあり例年のように神社でお参りを済ませた。というのも、年末年始は刑事にとっては繁忙で、いろいろ種々雑多な事件が起こるからだ。
鳥旨署の近くまで戻ったとき、符来度は、妙な身なりの男が道を塞いでいるのに気づき、おやっ? と首を傾げ、車を止めた。署は目と鼻の先だから、さすがに通行妨害ではないだろう…と思いながら符来度は男に近づいた。男はどこかで見たことがある浮浪者風だったが、どうしても思い出せなかった。
「あの…ちょっと、ここは通行の妨害になるんですよ。側へ寄ってもらえませんかね。私、そこの署で刑事をしております符来度と申します」
符来度は威張るでなく軽く頭を下げ、警察手帳を見せた。そのとき、符来度は、ふとその男が何者なのかを思い出した。20年ばかり前、建設会社で羽振りのいい暮らしをし、美人秘書と結婚した親類の親類になる親類筋の男だった。遠い昔の当時は縁が深かったこともあり、付き合いも頻繁にしていたから、符来度はよく知っていた。
「なんだ! 負知さんじゃないですか? どうしたんです、こんなとこで? まあ、ここは危ないから、側へ寄りましょ」
その男は側へより符来度の顔を見た途端、胸に縋りつき号泣しだした。号泣されるのはいいが、少し悪臭が鼻につき、服も泥だらけの浮浪者風だったから、符来度はすぐ男を離した。
「ぅぅぅ…聞いてくれるか? 油衣ちゃん!」
「ど、どうしたんです、負知さん!?」
「会社がつぶれて、秘書に捨てられたぁ~~!!」
「…」
符来度はサスペンスでもなんでもないじゃないかっ! と馬鹿馬鹿しくなってきた。
完