-95- 夢逮捕
非番の刑事、旅出は日頃の疲れからか、和室に横たわりながらウトウト・・としていた。点けていたテレビのニュースが何やら話しているのが聞こえる。旅出はその声を朦朧とする意識の中で聞いていた。
『犯人は車のハンドルを奪って逃走。現在、○△高速道は大渋滞となっています。現場から猪髭がお伝えしましたっ!』
ああ、そうなんだ…と、聞こえる声に興味が湧き、旅出は薄目を開けた。テレビ画面には大渋滞する車列をヘリコプターから俯瞰して撮る映像が映し出されていた。旅出は、人騒がせで妙な犯人だな…と瞬間、思った。フツウ~は車同士の激突事故とかのニュースのはずで、こんな逃走事件でも現金の略奪とかが相場なのだ。ハンドル? そんなもん、どうすんだ? …と、旅出は和室の畳から半身を起こしながら腕組みし、首を傾げた。画面はCMに移行しており、慌ててリモコンを手にすると、旅出は国営テレビにチャンネルを切りかえた。さすがにCMはなく、現場の様子が臨時ニュースで実況されていた。しばらく観たあと、旅出は、こんな迷惑な野郎は早く捕まえんとな…と思いながらテレビを消し、また眠りについた。
旅出は夢うつつの世界にいた。犯人が高速道を逃げていた。
『待てぇ~! ハンドルを返せぇ~~!』
旅出は喚きながら犯人を追っていた。夢の中だからか、息切れはせず走ることが出来た。そしてついに旅出は犯人に追いつき、手錠をかけた。
『こんなもん、どうすんだっ?!』
犯人が持つハンドルを取り上げ、旅出は訊ねた。
『へへへ…格好よかったもんで、つい…』
顔は幻想のためかボヤけていたが、犯人は薄笑いを浮かべながら、悪びれもせずそう言った。
『やかましいわっ!!』
そう叫んだとき、旅出はハッ! と目覚めた。畳から立ち上がりながら、夢か…と旅出は思った。小腹が空いていることに気づき、旅出はカップ麺でも食べるか…とキッチンへ行った。食べながらキッチンのテレビを点けると、先ほどの高速道のニュースが続いていた。
『犯人は先ほど、偶然、付近に居合わせた刑事により逮捕された見込みですっ! 現場から角鹿がお伝えしましたっ!』
画面を見た旅出は一瞬、おやっ? と思った。テレビ画面にはハンドルを握り犯人を連行する自分が映し出されていた。んっな馬鹿なっ、俺はここにいる! これじゃ、サスペンス以上のオカルトじゃないかっ! …と旅出はゾッとしてテレビを消した。
完




