-91- やさぐれ刑事(デカ)
風見署に、他の刑事達とはどこか一風、違う刑事がいた。何ごとにも無気力な上に投げやりな男で、烏賊下といった。他の刑事達が捜査会議で真剣に話しているときでも、烏賊下はもっぱらダンマリを決め込み、ただ一人、話している警部の姿を手帳に描いているような刑事だった。風見署ではもっぱら、やさぐれ刑事と陰で烏賊下を呼んでいた。そんな烏賊下だったから、捜査のときもそう頼りにはされていなかった。
「烏賊下、張り込みの差し入れを買ってきてくれっ!」
「はい、分かりました。いつもどおり、でいいんですかね?」
「んっ? ああ、いつもどおり。…あとから払うからな、ヨロシクッ!」
ロック風に格好をつけ、パン好きの鶏向が言った。
烏賊下が同僚刑事に頼まれることといえば、こんな食料の調達ばかりで、スーパーやコンビニではよく見る客として彼の顔はよく知られていた。だが不思議なことに、烏賊下が食料を手渡したあと、事件は急速に展開し、解決していくのだった。
烏賊下は本当に、やさぐれ刑事なのか? いや、それはまったく逆だった。なにを隠そう、彼こそが辣腕刑事として多くの事件を解決した警察庁秘密捜査官、蛸上だったのである。このことを知る者は、警察庁幹部のごく一部の者だけだった。
完