表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/100

-88- 戻(もど)ってきた証拠

 これという状況証拠も得られないまま、残ったもちの数という唯一の物証により、訴えられる破目になった財宝ざいほうに科料の判決が言い渡された。要は、科料であって軽い、軽~~い●判決だった。だが、財宝はもちは自分が食べていないと言い張り、その判決に対し異議申し立てを行ったのである。その餅は限定生産された1個、時価数万円の高額餅だった。財宝の申し立ては次の通りである。

「だいたい、食べ終えて満腹になっていた私が、他の高価な餅まで食べると思われますかっ?! 考えてもみてください。人間、そんなに食べられるもんじゃない! まあ、きっ腹ならともかく、私の場合、そんなに減っておりませんでしたからねっ! 高価な餅ということもあり、何個か食べ、もう食べられなかったんですよ、そのときは…」

「それを証明する人は誰かいますか?」

「いえ…。席を立たれた皮袋かわぶくろさんだけでしたから」

「でしょ! あなたしかいないんだっ! 私の餅を食べたのはっ!」

「あんたは、またそういうことを言う! 高々、1個、数万円の餅じゃないですかっ! そんなに言われるんならお支払いしますよっ、過料の分だけっ!」

「ほら、やっぱりあなたが食ったんだっ!」

「まあまあ、お二人とも…」

 裁判官はあきれながら、双方の中央で、アングリした顔をした。そのとき、バタバタと入ってきた一人の子供がいた。訴えた皮袋の10才になる息子である。

「あの…財宝さんが来られる前に、僕が一つ、食べておきました」

「なんだってっ! お前が?」

「はい、お父さま…」

「それならそうと、ほほほ…先に言いなさい。それに、食べておきましたじゃなく、食べましたでしょうが、この子は、ほほほ…」

 皮袋は目に入れても痛くない息子のひと言で態度を豹変ひょうへんし、急に柔和にゅうわな笑みを浮かべた。もどってきた証拠は皮袋が溺愛できあいする息子だった。


               完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ