-85- 新町交番・捕物控[前編]
今を去ること数百年前、時は江戸半ばのことでございます。ここ新町の界隈は町へ出入りする多くの通行人、旅人で賑わっておりました。その町家の一角に諍いごとの一切を取り締まる町番屋がございました。この番屋を取り仕切る一人の親分、銭形平次や人形佐七・・とまでは参りませなんだが、それ相応のいい腕を持つ御用聞きがおりました。名を牡丹餅の串八と申します。その牡丹餅の串八が神隠しにあったように忽然と消えたのでございます。さあ、町中は偉い騒ぎとなっておりました。
一方、こちらは現代の新町交番でございます。その何ごともない中で、静かに事務書類を整理しておりますのは、交番へ赴任して三年ばかりになります棚下でございます。そこへ突然、天から降って湧いたごとくに姿を現しましたのは、先ほど江戸から消えました牡丹餅の串八であります。身なりは当然、江戸半ばの和装に丁髷姿でございましたから、棚下はびっくり仰天相場ではございません。串八の方の驚きようも無論、尋常ではございませんで、二人は交番の中で右往左往するばかりでございました。
「あ、あんたは何者だっ?!」
「それは、こちとらが訊きてぇ~や。お前さんこそ、何者だい!」
「何者って、姿を見て分からないか? この交番の巡査だっ!」
「交番の巡査? なんでぇ~それは? だいたい、妙な格好からして、どうも怪しい野郎だっ!」
「あんたこそっ! 事情聴取するよっ!」
「事情聴取? そりゃまた、なんでぇ~! 引っ括るから覚悟しやがれっ!」
串八は帯に差した十手を引き抜き身構えたのでございます。
「それは、こっちの台詞だっ!」
棚下も警棒に手をかけ、身構えます。まさに、新町交番の中でトラブルが起きようとした訳でございます。警棒と十手がカチンッ!! と音がしますというと、あな不思議、串八の姿は跡形もなく新町交番から消え失せたのでございます。巡査の棚下は唖然といたします。
「フフフ…今日のところは、これくらいにしておいてやろう」
その一部始終を、交番の外から窺うひとつの黒い謎の影。いったい何者なのでございましょうや。そして、その目的は果たしてなんなのか。話はややこしいサスペンスぶくみで佳境へと入ってくるのでございますが、本日はお時間の関係で、この辺りにさせていただきたく存じます。続きは後日、ご期待あるべし!
完