-81- 停滞捜査
中央高速道は始まった大型連休で混みに混んでいた。
「おいっ! 急げっ!! なにをモタモタしとるんだっ!」
怒り心頭の刑事は今年で刑事生活30年目を迎えたベテランの忠秀である。ガサイレに向かったまではいいが、うっかり高速道へ車を入れさせ、交通渋滞に巻き込まれたのだ。犯人、真原の潜伏先を張っていた若手刑事の榊岡からの通報を受け、急いでいた矢先だった。真原が動かないうちにガサを入れないと間に合わなくなる危険性があった。現場まではスムースに車を走らせても、優に20分はあった。
「くそぉ~~っ! どうするんだっ! どうするんだっ、おいっ!」
「どうにもなりません、班長…」
溜め息混じりに、つい愚痴を零してしまったのは運転する中堅刑事の尾久保だ。
「なにをぉ~~!!」
「いえ! なんでもありません…」
尾久保は小声で弁明した。
「尾久保、そのまま運転してろっ! 俺達は下を行くっ! おい、行くぞっ!!」
イラつく忠秀は隣の中堅刑事、蒼山にひと声かけると車のドアを開け、インターチェンジをめざし駆け出した。当然、蒼山も、そのあとを追尾する。携帯片手に道の側道をひた走る二人のマラソンが始まった。
ようやくインターチェンジへ出た二人は、荒い吐息で手配した覆面パトカーへと飛び込んだ。
「おいっ! 急げっ!!」
パトカーは高速道下の地方道をひた走った。ようやく犯人、真原のアジトに車が迫ったとき、忠秀の携帯が激しく振動した。忠秀は慌てて背広の内ポケットから携帯を取り出した。
「なんだ? …ああ、…そうか、…分かった」
勇んでいた忠秀のテンションが急に落ちた。携帯はアジト近くで張り込む榊岡からだった。
「班長、どうされました?」
訝しげに蒼山が訊ねた。
「真原が潜伏先から姿を晦ましたそうだ…」
捜査は渋滞する道路のように、ふたたび停滞した。
完
※ その後、犯人は捕らえられたそうです。よかった、よかった。^^