-79- 未来警察・時空捜査
人類はやはり馬鹿ではなかった。一時は核戦争による世界大戦勃発の危機が訪れたが、人類はあらゆる策を講じてその危機を未然に防ぐことに成功したのだった。異次元空間理論に端を発した研究の成果として、装置の発明により人類が時空を超越することを可能にしたのが大きな理由である。時空移動が可能になれば、未来への時空移動で将来の姿が見えてくる。となれば、将来の悪くなる事象を未然に防げる訳である。こうして、核戦争による地球の核汚染は未然に防がれたのだった。警察の捜査も過去、現在、未来が繋がりを見せると、犯罪の姿が浮き彫りとなってくる。捜査というよりは、犯罪の未然防止が可能になってくるのだ。たとえば、Aという事件が起こったとすれば、過去の時空へ飛んで捜査することにより、事件の発生を食い止めることが出来る。そして、今日も時空捜査が未来警察で行われていた。
「中坂捜査官、幾森副官を伴い、ただちに出動してくれっ! 詳細は配布のデータどおりだっ」
未来警察・宿川署では、今朝、負傷者を出したデモ隊と機動隊の衝突による傷害事件に対する出動命令が刑事課長の鏡崎警視官から二人に発令された。データは頭部の警察帽の付着装置より照射されたデータであり、紙は使用されない。二人は照射され手の平に映し出されたデータを見た。
「はいっ!」「はいっ!」
中坂と幾森は同時に鏡崎へ敬礼すると、スゥ~っと跡形もなく刑事課から消え去った。
数時間が経過し、二人の姿はふたたび刑事課へと現れた。
「警視官、報告いたしますっ! 事件発生のメカニズムは、単なる焼き芋でしたっ!」
「焼き芋? …? どういうことだ?」
「はっ! デモ隊がデモを終え、一同がファイアー・ストームを囲み、焼き芋を頬張っていたらしいのです」
中坂が詳細を語った。
「ほう! それで」
鏡崎は耳を欹てた。
「その美味そうな焼き芋の一本を、機動隊の中の一人の警官が没収しようとして…」
幾森が加えた。
「なんだって? そりゃ、職務執行法違反の越権行為じゃないかっ! こっちが悪いぞっ、こっちがっ!!」
「どうされます?」
「拙いなっ! これは拙い。ただちにデモ前へ出動し、事件を未然に防いでくれっ!」
鏡崎は自分の首を案じ、慌てた。
「はいっ!」「はいっ!」
中坂と幾森は同時に鏡崎へ敬礼すると、ふたたび刑事課から消え去った。
翌日、事件は未然に防がれた。デモ隊は配られた焼き芋を食べたあと、事もなく解散したということである。未来警察の時空捜査は、このように今日も続いている。
完