-74- やはり馬鹿か?
朝から反物署では捜査会議が行われていた。
「やはり馬鹿の仕業かと思われます」
「それは、どうしてだ?」
「銀行へ1億円の窃盗に入った者が、9,999万はそのままにして9,999円を置いて去っているからです」
「…1万円を盗って、9,999円を置いていったんだから、実質的にはわずか1円の窃盗事件だからな」
刑事課長の友禅は、若手刑事の洗水に悠然と言った。
「課長、しかし1円でも窃盗は窃盗ですよ」
割って入ったのは中堅の竿干刑事だ。
「ああ。それはまあ、そうだ…」
「ただ、事件だとしても1円を盗られて、フツゥ~届けますか?」
「それには、はっきりした理由がありますよ。金庫に保管された1億円の札束の置き場が変わってたんでしょ?」
「ああ、そうだったな。そして、その100万の札束の中の1枚が抜き取られたと…。これは届けんと、また盗難に遭う可能性もあるんだからな}
「万引きテロみたいなもんですからね」
課長の友禅に竿干が追随した。
「上手いこと言うな。…それにしても、手間のいる嫌な一件だな」
「なぜ1円だけなんでしょう?」
「俺が訊きたいよ」
竿干が洗水に返した。
「やはり馬鹿か? …」
友禅が、また悠然と言った。竿干と洗水は黙って頷いた。
完