-72- かるた刑事(デカ)
矢箱署である。
「どうも、花の色は・・だな」
老練刑事、岩園は、百人一首で事件を読み解く[かるた刑事]と署内で呼ばれる、辣腕の刑事だった。
「このままだと、年老いて捨てられるのでは・・という気持からの犯行だと?」
岩園にピッタリと小判鮫のようにいつも寄り添い、ご機嫌を窺うのは、若手刑事の杉板だ。
「そう、それ…。わが身世にふる ながめせしまに、だっ! 時期が、村雨の~・・だからな」
「はい! 秋の夕暮れでした」
「そうじゃない。作者名、作者名…」
「寂蓮法師・・なるほど、寂しかったんですね?」
「まあな…、侘しかったともいえるが…。捜査はまず、犯行を行った人物の心理から真実に迫る。それが鉄則だっ」
杉板は岩園の言葉を警察手帳にメモ書きした。
「…そんなことは頭に覚えておくんだっ!」
「はいっ!」
杉板はメモをやめた。そのとき、岩園の腹がグゥ~! っと鳴った。
「まあ状況とそのときの心理は分かった。ただ…」
「ただ、なんでしょう?」
「鰻重に付いている瓶の市販品の山椒が分からん。あれは、本物の木の芽をパラパラ・・と、散らせて欲しいものだ…」
「? はい…」
杉板は、かるたとは関係ないな…とは思ったが一応、頷いた。
完