表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/100

-71- 事件の終着

 漁川いさりがわ署の捜査本部である。事件は犯人逮捕で一件落着し、刑事達は勤務後の慰労会で一杯、やっていた。

「いや! 私はこの手のものは…」

 茶碗に一升瓶の酒をそそごうとした小鮒こぶなあわてて片手で止め、ペットボトルの烏龍ウーロン茶を茶碗に注ぎ入れたのは新しく第一線に配属された諸子もろこだった。諸子は酒が嫌いだとか下戸げこという訳ではなかった。表立ってかどが立たないよう、当たりさわりがない苦手にがで飲めないことにしたのだ。

「ああ、そうか…。お疲れさんっ!」

 小鮒は変なヤツだ…とわだかまることなく、笑顔で諸子の肩をポン! と一つたたくと他の刑事達の方へ行った。一方、諸子の内心は蟠っていた。諸子にとって事件の終着は犯人逮捕ではなかった。一足のそれほどいいとは思えない安価な靴が盗まれ、その犯人が捕まって酒かいっ! といったところだった。まあ、連続窃盗犯の逮捕だったから、フツゥ~に考えればそれもうなずけるのだが、諸子には頷けなかったのである。

「どうしたんだ、諸子君。元気がないじゃないか」

 しばらくして声をかけたのは課長の波町はまちである。私事わたくしごとながら、このたび目出度く警視に昇格し、県警本部への異動が内定していた波町は、至ってご機嫌がよかった。

「いや、大丈夫です。少し疲れただけですから…」

 諸子はまた方便を使った。方便とは、こんなときのためにある・・とでもいえる絶好のタイミングだった。

「そう? まあ、無理しないようにね」

「はい! 有難うございますっ」

 波町は少しえらぶり、余裕めいて言った。なにが無理しないようにねだっ! が、諸子の内心だったが、そうとは言えず、笑顔で軽くお辞儀した。諸子にとって、事件の終着は、なぜ犯人は高価な靴を盗らなかったのか・・の素朴そぼくな疑問が解けたときだった。


               完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ