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-7- 寂しい善人

 魚住 流清るせいは今どき男子の新任刑事だ。イケメンの彼はけっこう女子には人気があり、それが返って捜査の足手纏まといになっていた。いいところまで見つからず張り込んでいたつもりが、通りかかった若い娘数人にキャァ~~! と黄色い声で騒がれた挙句、犯人を取り逃がしてしまったことも度々(たびたび)あった。今売れ筋の若手歌手に似ていた・・ということもある。そんな魚住は、署へもどると上司の警部補、鱧煮はもにからにらまれたが、取り分け気にせず、無頓着むとんちゃくに♪~♪とハーモニカを吹くように軽く受け流す性質たちだった。上司の鱧煮も、署内の婦人警官達に人気が高い魚住には面と向かって怒れず、伸びた顎鬚あごひげむしる以外なかった。

 魚住はあるとき、駆けつけ警護に出かける途上、厄介やっかいな母子連れにバッタリと遭遇そうぐうした。二人は大声でののしりあい、路上で喧嘩けんかをしていた。魚住は、またかよっ! と思えたが、そのあとがいけなかった。持って生まれた善人ぶりがつい出てしまったのである。魚住はいつの間にか二人の中へ割って入っていた。あとから思えば見て見ぬ振りをして通り過ぎればよかったのである。事件性のない民事には不介入が警察の原則だったからだ。それでも魚住は警察手帳をいつの間にか二人の前へ差し出していた。手帳を見た二人は急に静かになった。

「まあ、お二方ふたかたとも落ちついて…」

「まあ、聞いて下さいな! この、どうしてもイヤリングが買いたいって言うんですよ」

「だって!」

「…イヤリング?」

 なんのこった? と魚住はキョトンとした。

「いえね、さっき寄ったお店のイヤリングが気に入ったみたいなんです。しかってやって下さいな」

「ははは…イヤリングでしたか」

 叱れる訳ねぇ~だろう…と、少し怒れたが、生まれ持って善人の魚住はすぐに打開の方法を模索もさくしていた。気持はあせっていたが、腕を見ると駆けつけ警護まで、まだ15分ばかりはあった。

「お母さん! 店に戻るからねっ!!」

「娘さん、まあ今日のところは僕の顔を立てて、このまま帰ってもらえませんかね。実は僕、急いでるんです…」

「…」「…」

 母親と娘は互いに顔を見合わせると、悪いことでもしたように、軽く頭を下げ立ち去った。現実はドラマのように格好よくはいかない。なんというサスペンスの結末だ! と魚住は寂しい気分で警護場へと走り出した。


                        完

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