-69- 柳に風
立花は風変わりな刑事である。あらゆることを柳に風と受け流すのだ。そんな立花だったが、妙なもので事件はスンナリ解決させたのである。取り分けて手法がある訳ではなく、警察内部では七不思議の一つとなっていた。
そんなある日、また新たな事件が一つ、発生した。
「えっ!? なんです? あなたの旦那が失踪したんですか?」
立花は捜索を願い出た女に一応、驚いたものの、内心では、アンタなら仕方ないでしょうな…と思った。女の態度は横柄で、容姿も、どちらかといえば男だったからだ。それでも、そうとは言えないから、適当にあしらって聞く態でいた。女も立花が柳に風と受け流すものだから、始めのうちは諄く話していたが、要領を得ないのでそのうち言葉少なになった。立花としては、いつもながらの事情聴取であり、この場合だけ特別にしている訳ではなかった。立花は丁重この上ない態度で手続きだけ済ませてもらい、お引取りいただいた。
そして、探すでなく、一応、住所の家だけでも見ておこうと女の家を訪問した。なるほど…と思える肋屋で、掃除した形跡がないほど家内は埃に塗れていた。
『お掃除はなさらないんですか?」
「大きなお世話でしょ! そんなことっ!」
女は機嫌を損ねたのか、こともあろうに立花に噛みついた。立花は、これじゃな…とは思えたが、そうとは言えず、思うに留めた。
「ご主人が立ち寄られそうなところは?」
「それが分かれば苦労しませんよっ!」
まあ、言われてみれば、そうか…と立花は腹立てることなく柳に風と受け流した。
女の家を出て、五分ばかり歩いたときだった。立花は塀越しに女の家を見続ける一人の男を発見した。刑事の直感で、おそらくは女の旦那…と立花は閃いた。
「あの…そこのご主人ですか?」
男は黙ったまま静かに頷いた。
「まあ、よかった…。お宅はサスペンスですなぁ~」
立花は柳に風と、なにを思うでなく男に言った。
完