-67- 不連続追突事件?
朝の駅である。勤めに向かう人の流れが途絶えることはなく、構内は多くの人で混雑していた。事件? は、通勤者同士の単なる追突から始まった。
「あっ! どうも…」
「いや…」
二人の通勤者がホーム階段の上り下りで偶然、軽く追突した。このときは取り分けて騒動になるようなことはなかった。問題はそのあとに発生した。降りる通勤者に謝って上り始めたその一人がまた別の下りる通勤者に追突したのだ。問題はそれだけではない。謝って下り始めた通勤者も別の上る通勤者に追突したのである。このときも少し雑然としてその場だけ人の流れが途絶えたが、まあ騒動になるようなことはなかった。だが、しかし! である。その次にも同じような上り下りでの追突が発生し、その現象は連鎖的に拡大して、ついに事故的な騒動へと発展していった。幸い、その負の連鎖は個々に生じるのみで、雪崩をうって通勤者達が倒れるというような大事故には至らなかった。ただ、掠り傷程度の負傷者は多数出たから、偉い騒ぎである。駅構内は騒然とし、列車が運休する事態となり、構内での歩行制限が駅員により行われる事態に至った。当然、テレビがその様子を映し出した。
「あの…急いでるんですがっ!」
「すみません、現在、関係者以外、通行禁止ですっ!」
「あの…私、関係者なんですがっ! 山手中央署の岸海と申しますっ!」
「ああ、どうぞ…」
岸海は警察手帳を提示した。駅員は、それを早く見せなさいよっ! という顔で岸海他、数人の刑事を見た。
「将棋倒しにならず、よかったですよねっ」
「ああ…」
現場の階段を検分する岸海に従う若手刑事の波間が声をかけた。
「こういうことって、あるんですかねぇ~?」
また別の若手刑事、汽笛が、ボォ~~っと音を出した。
「そら、あったんだから、あるんだろう…」
岸海は、つまらんことを訊くなっ! とでも言いたげに、仏頂面で呟いた。
「過失傷害・・ではないですよね?」
またまた別の若手刑事、碇が訊ねた。
「ああ…偶発性の不連続追突事故と断定してもいいだろう。駅側に過失があったとも思えんしな」
やっと、まともなことを訊いてくれた…という顔で、岸海は頷きながら笑みを浮かべた。一件は不連続追突事件? ではなく不連続追突事故として落着した。しかし、真実は地球に降り立った透明な異星人の子供の仕業だとは、警察当局を初めとして誰も気づいていない。
完