-63- 霧の夜の出来事
奇妙な事件がらみの出来事は、秋が深まりかけたある霧の夜に起きた。
葱山署の取調室である。
「ほう! なるほど…。つまり、あなたは深夜に細い山道を歩いておられた訳ですね?」
「はい…」
薪刑事の問いかけに、鍋川は小声で返した。
「そこで、行き倒れていた鴨居さんを発見したと…」
「はい…」
「妙ですなぁ~。そんな山道をなぜ深夜に歩いておられたんです?」
「なぜと言われましても、家への帰り道ですから」
「家? ははは…鍋川さん、冗談も休み休みに言ってもらわないと。そんな山深いところにお宅の家が?」
「なにか怪しいでしょうか?」
鍋川は、また小声で薪に返した。
「そりゃ、おかしいでしょう! 人里はなれた山の中にご自宅が? いや、私らもこれから一度、お伺いしようと思っとったんですがね」
「はあ、それは皆さん言われます…」
「なにか訳でも?」
「それは言えませんが…」
「まあ、いいでしょう。で、夜霧が深かったんでしたね?」
「ええ…」
「それにしても、鴨居さん、なぜそんなところで行き倒れていたんでしょう」
薪は刑事らしく、搦め手から遠回しに訊ねた。
「さあ?」
「その日から鴨居さん、狂ったように踊りまくっておられるんですよ。いったい、なにをされました?」
「いや、別にコレといったことは…。家へ負ぶって帰り、介抱しただけで、翌朝、お礼を言うと、トボトボ帰られました」
「何か変わった様子は?」
「いえ、別に…」
「あなたの家で出された飲食物は?」
「私と同じ朝餉とお茶くらいですが…」
「なるほど…」
この霧の夜の出来事は、今でも葱山署の怪奇な一件として解決を見ていない。鴨居さんは相変わらず陽気に踊りまくっているそうである。
完