表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/100

-62- 突(つつ)かれた夢

 刑事、戸坂の生活が始まった。事件がない日の勤務は、世間一般のサラリーマンとあまり変わりがない。捜査三係で、マル暴の四係でなかったのが幸いしてか、戸坂は犯人にうらみを買ってつけねらわれるということはなかった。三係は窃盗事件担当で、刑事任用試験を経て配属となった戸坂も、配属後はそれなりに活躍していた。それなりに・・というのが味噌みそで、当たりさわりがない程度に・・という刑事課長の羽根が聞けば、努力が足りんぞっ! と叱咤しったされるに違いない勤務実態である。分かりやすく言うなら、要領よく体調の維持を図る・・というツボとも言える手法をとっていたということだ。まあ、深夜まで帰れない日、何日もの連勤[連続出勤]、突然呼び出しを食らう待機日と、いろいろあったから、それなり・・というのは、長く働き続けられる知恵なのかも知れなかった。

 その日も、いつものように戸坂は定まった通勤経路を経て口端くちばし署へと入った。ところが、である。いつも見る署員が人っ子一人いないのである。三係へ入ると、係員の姿は誰もなく、係長の地矢保ちやぼも当然、いなかった。空虚くうきょな机と椅子、静まり返る署内・・これは尋常ではないぞっ! と、戸坂は刑事らしく殺気立って署外へ飛び出したが、さっきまでの通行人の流れがなく、やはり誰の姿もなかった。戸坂の心はなかばパニック状態におちいっていた。人の気配を探しながら戸坂が署内へもどると、誰もいない中でただ一人、後ろ向きに立って窓から外の景色を見る羽根の姿が目に映った。

「課長!!」

 戸坂は思わず叫んでいた。

「戸坂君、えさは君かい?」

「… ?」

 ふり向いた羽根の顔はにわとりだった。そのときにわかに眩暈めまいに襲われ、戸坂は意識を失った。

 チクチクした痛みで戸坂は目覚めた。あたりを見遣みやると、そこは一年前に作った自宅の鶏小屋で、戸坂は卵を握ったまま、心地よく横たわって眠っていたのだ。羽根、いや、鶏が戸坂の顔の前でコツコツと戸坂の顔をつついていた。戸坂は不眠捜査の連勤で疲れ、つい朝方、入った鶏小屋で眠ってしまったのである。


                完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ