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-6- 正義の味方

 多山は今年で35になる町役場の中堅職員だ。税務課に配属され、幸か不幸かその人当たりのよさを買われ、税金未納の徴収を一手に引き受けている。全職員が嫌がる仕事の3本の指に入るその1つの仕事だ。多山は払えない貧しい家庭には自腹を切って当てていた。これは無論、多山にとっては経済的に大損失で身を切るつらい決断だった。決してゆとりがある給料はもらっていない多山だったから、それも当然といえば当然だった。

「どうしても、無理ですか?」

「…」

 やつれた外見の中年女に多山は小声でたずねたが返答はなかった。この家へ足を運んでいるのは、今日で5度目だった。家の中の荒れようからして、これは無理だな・・・とは思えていた多山だったのだが、一応、訊ねたのだ。

「いいでしょう! …ここに、これだけあります!」

 多山は背広のポケットから財布を取り出すと、中から札を数枚抜き取った。すでに、払ってもらえないな…と、ほぼ推断していた多山はその額よりやや多めのさつを財布に入れて家を出たのだ。そのときの気分は自分が正義の味方になったいい気分と、今月は月半分か…という生活費半減の憂いだった。

 多山が札を女に手渡すと、女は、よよ・・と泣きくずれた。ここで言っておくが、なにも多山は慈善でそうしたのではなかった。彼は5度足を運ぶ間、極秘裏に未納のこうした家々の生活状況を探っていたのだ。あたかもそれは、刑事の張り込みか探偵のような情報収集によるもので、勤務の公休はほぼすべて、実態調査のために使われていた。そして、その探った結果が今日の多山の行動につながっていた。女の夫と子は事故死していた。生きがいを失った女は廃人同様になっていたのである。そんな身の上の女だったが、多山にも生活があった。神仏でない以上、食べねば飢えぬことくらいは多山も分かっていた。正義の味方も弱かったのである。これは恐ろしいこの世のサスペンスである。正義の味方は、残念ながらドラマのように格好よくも強くもなかったのだ。


                       完

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