-57- 風には逆らうなっ!
掃部署の赤堀は、休みがやっと取れたというのに妻の命令で、せっせと落ち葉を掃いていた・・いや、掃かされていた。署内では凄腕の刑事として署員達から一目置かれる赤堀だったが、家ではさっぱりなのだ。その日は風が強く、ようやく掃き終わった…と思いながらその場を振り返ると、また北風がビュゥ~~っときて、元の落ち葉だらけの状態に戻してしまっていた。赤堀は犯人を取り逃がしたあとのようにクソッ! と腹を立てた。意固地になった赤堀は執拗に掃き始めた。そして、今度こそ掃き終えたとき、またも北風がビュゥ~~っときて、せっかく掃き終えた敷地を元の落ち葉だらけにしていた。赤堀は怒った。おお、やってやろうじゃないかっ! こうなりゃ、綺麗に掃き終えるまで掃いてやるぞっ! と意固地を通り越し、頑固になった。よ~く考えれば、風は北から吹いているのだ。それを赤堀は南から掃いていた。これでは意味がない。それに気づいたのは、北風にやられた三度目のあとである。赤堀は、俺としたことが…と、風がやむのを待って、また掃こう…と一端、家の中へ撤収した。
風がやんだあと、好きな餡餅を食べ、茶を啜っていると風が小やみになった。さてと…と、赤堀は落ち葉掃きを再会し、無事に掃き終えた。
次の日、赤堀は掃部署で新たな事件を担当した。置き引き常習犯の張り込みである。多くの人通りがある繁華街の片隅で、赤堀はジッと身を潜め、面のわれた犯人が現れるのを待っていた。信号が変わり、人が流れ始めたそのとき、人込みの中に動く犯人が見えた。赤堀に従って張り込んでいる若い刑事の備は瞬間、飛び出そうとした。
「風には逆らうなっ!」
赤堀は思わず備に叫んでいた。
「えっ!?」
備は意味が分からず、動きを止めた。
「いや、なんでもない…。とりあえず、泳がせよう」
「はい、分かりました…」
備にも、泳がせよう・・という意味は分かった。
完