-56- 切れたロープの謎(なぞ)
深地署、刑事課の一室では捜査会議が開かれていた。焦点は切れたロープの謎についてである。
「いや! 偶然にしては、あまりにタイミングが合い過ぎます!」
若手の刑事、土竜は反論するならしてみろっ! とでも言いたげに、座る多くの課員を見回しながら頑強に主張した。
「それはそうだが、まあ、そういうことだってあるだろう」
宥める口調で小さく返したのは土竜とタッグを組む先輩刑事の川宇曽だった。
「科捜研の矢守です。切り口の科学鑑定結果は配布の資料のとおり繊維痕の不ぞろいなどの点から自然磨耗による切断と推論されます。ただ、切断面があまりに鋭利な形状をしているため、偶然性の確定に全力を注ぎたいと考えております」
「ということは、人為的な故意による切断もあり得る訳ですか?」
「いや、そこまでの推論はいたしかねますが、ただ、偶然の形状にしてはあまりにも珍しいケースかと…」
土竜の追求に矢守はお茶を濁した。
「それそれ! 害者に落ちたタイミングだってあまりにも偶然過ぎる!」
一端、座った土竜がまた立った。
「落ちつけっ!」
隣に座る川宇曽は無理に土竜を座らせた。
「他には!」
前方にドッカ! と腰を据えた、捜査本部長の蝦蟇口は渋い顔で一同を見回した。誰も口を開こうとせず、静まり返っている。土竜は、俺だけかよっ! と、少し不満げに周りを見回した。そのとき、蝦蟇口の携帯が鳴った。
「なにっ! 害者の意識が戻った?」
辺りは俄かにガヤガヤと騒がしくなった。
「静かにっ!! 聞いてのとおりだ。害者は害者でなくなり、ピンピンしているそうだっ!」
座っていた蝦蟇口が立って言った。事件? は暗礁に乗り上げず、捜査本部は解散した。
完