-54- いつやらの捜査
ふと、思いだしたように捜査三課の刑事、尾高は過去の調書を捲っていた。すでに時効を迎えていたその事件は600円分の自動販売機不正使用事件という警察が忘れたいようなセコい窃盗事件だった。
尾高がふと、調書を捲ってみよう…という気になった経緯は、3日前に遡る。その日、尾高は町の大衆食堂で腹を満たし、トボトボと歩いていた。そのとき、道路の右前方斜めにあった自動販売機を物色するどこかで見かけた人物を発見したのである。そうだ! と尾高がその男を思い出したのは、署へ戻ってからだった。
事件の発生は、さらに3年前に遡る。場所はこれも尾高が自動販売機が置いてある道路を通行中のことだった。その男は自動販売機を物色していた。
「どうかされましたか?」
尾高は男に近づき、声をかけた。自動販売機の形状を探っていた男は尾高の声に驚き、顔を向けた。尾高と男の目が一瞬、合った。
「…」
男は少し取り乱し、後ろめたそうに立ち去った。尾高は妙だな? と、刑事の勘で思った。自動販売機を設置している店主が警察へ訴えたのはその数日後だった。600円分が足らないという。
「ははは…あなたの数え間違いじゃありませんか」
「いや、そんなことは絶対にございません! 毎日、点検しとるんですから…」
そう言われたとき、尾高はふと、男の顔を思い出した。ひょっとすると…と思えたのは、男が立ち去った自動販売機と符合し、男の不自然な挙動からだった。
「分かりました…」
尾高はその自動販売機に鑑識、科捜研をともなって行った。捜査員達は全員が、俺達は必要があるのか? このクソ忙しいのに馬鹿馬鹿しい…という顔で証拠を収集した。自動販売機は壊れた形跡もなく正常に作動しており、捜査員達は妙な事件に首を捻った。ただ、地球には存在しない妙な金属破片が発見され、男は宇宙人・・ということで一件落着した。いや、落着させないと悪質な事件が横行する現在、捜査する暇がなくなる…というのが警察の結論だった。ただ、尾高は宇宙人は地球を調査している…と信じ、時効になったいつやらの捜査を秘密裏に続けている。
完