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-52- 物忘れ捜査・事件消滅

 酒蒸(さかむし)署の刑事、下戸(げこ)は最近、とみに物忘れをするようになっていた。50半ばになった途端、その傾向が激しくなり、下戸には(つら)かった。

「先輩、一度、てもらったらどうですか?」

 下戸のフォロ-をする機会が増えていた後輩刑事の(こうじ)は下戸に小声で言った。なんといっても事件捜査で記憶が消えれば捜査は振り出しに(もど)るから、ややこしいことになる。

「ああ、今度の()きで、そうするさ…」

 酒蒸署はこのとき、自転車連続盗難事件の捜査を行っている最中だった。

 深夜、11時の自転車置き場である。この日、下戸は麹と犯人が現れそうな場所を交代で張り込んでいた。張り込み番を麹と変わった下戸は、物陰ものかげから人の現れる気配をうかがっていた。張り込んでいる下戸は犯人の出入りを見張っているという目的をはっきりと覚えていた。だが、人影が動いたその次の瞬間、下戸は目的の記憶を失い、自分がなぜ深夜の今、こんなところにいるのか? という疑問にさらされた。当然、動いた足は止まっていた。しかし、身体が動いていた勢いというものがあった。自分は自転車置き場の方へ向かおうとしていた…という判断はついた。下戸は止まった足をふたたび動かし、自転車置き場の方へ歩いた。近づく下戸に驚いたのは犯人と思しき男だった。

「いや~、遅いのに大変ですなぁ。夜勤のお帰りですか? ご苦労さまです」

 下戸は丁寧ていねいな挨拶をして敬礼した。このひと言と敬礼に、犯人はグッ! と感極かんきわまった。

「ぅぅぅ…ああ、はい。私が、やりました」

 犯人と思しき男は、そのまま両手を下戸の前へ突き出した。

「えっ?! なにを?」

 うろたえる下戸に、犯人は? と首をかしげ、戸惑いながら去っていった。

 その後、盗られた自転車はすべて元の位置へと返され、事件は事件にならずに消滅した。

「まあ、私の物忘れで結果オーライだったんですがね…」

「ははは…事件が解決して、よかったじゃないですか。年齢から来る健忘症、老人ポケ、ボケですな」

 診察した老医者はボケを強調して下戸に言った。なにがボケだっ! このボケなす医者がっ! と思った下戸だったが、流石さすがにそうは言えず、笑顔でお辞儀して立った。

 帰り道、まあ事件にならずよかったか…と下戸は某演歌の大御所作曲家の♪昭和えれじい♪をハミングしながらレトロに思った。


                完

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