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-5- ホシ

 警察署長室の一コマである。20年ばかり前に定年退職した元署長の手植てうえ真一が部下だった刈田稲男を署長室に訪ねていた。その当時は若かった刈田も、すでに来年は定年だった。気をつかって席をはずしたのか、二人以外、誰もいない。

「どうだ、実ってるか?」

「ああ、これは手植さん! まあ、どうぞ。いやあ、なんとか・・ってとこですよ…」

 署長席に座る刈田は折りたたみ椅子を手植にすすめた。

「事件がないってのが豊作なんだがね」

 手植は椅子へドッカと腰を下ろしながら、そう返した。

「けっこう、細かいのが片づきません」

「昔にくらべりゃ人間も悪くなったからなぁ~。いろいろと厄介やっかいなのが起こって片づかんだろうな」

「これだけ文明が進んで、果たしてよかったのかどうか…」

「いや、そら進むに越したことはなかろうがな。ただし、必要なのか? が問題だがね」

「いらない進歩、けっこうありますね」

「それにともない、いらない人間も出てくる。我々のような年寄りもいらない! と言われればそれまでだがね」

「いやいや、手植さんは、まだまだ…」

 刈田は元先輩の手植にヨイショした。

「ははは…そう言ってもらうと私もまだまだやらんとなっ! 問題は若い世代だよ」

 手植は、俺はいったい何をやるんだ? と思いながらも強がって返した。

「ですよね…」

 いつもは部下に叱咤しったする小うるさい刈田も、今日は借りものの猫で、手植にゴロニャ~~状態である。

「まあ、国にも責任はある。ホシは相当、手ごわい」

「見えないホシは国ってとこですか、ははは…」

「ははは…余りでかい声では言えんがな。国の借金を差っ引くと、あまり国はよくなってないんじゃないか…」

「かも知れません…。未だ私もおかみから食わしてもらってる身ですから、でかい声では言えないんですがね」

「言えん言えん。君はまだ言えん!」

 二人の笑い声が署長室に木霊こだました。


                       完

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