表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/100

-42- 偶然の一致

 物事にはサスペンスタッチで進行していても、必ずしもサスペンスにはならない事件も多く存在する。

 縦走たてばしり署では起きた傷害事件の取調べが行われていた。なぐったのは登坂とさかで、殴られた相手は登坂の友人の下山しもやまである。二人は場末ばすえの屋台でおでんをさかなに酒を飲んでいた。

「下山さんとは古い友人だそうだが?」

 傷害事件を専門にしている刑事の寝袋ねぶくろは、不思議そうな顔で対峙たいじして椅子に座る登坂を見た。

「はあ、会社に入ったときからの付き合いで、かれこれ30年になります…」

「そんな仲のお前が、なぜ殴ったんだ?」

「殴ったんじゃないんですよ。私と下山はたたき合いをしていたんですよ」

「叩き合い? どういうことだっ!」

「いや、私も下山もかなり酔ってたんですが、酔いもあって話が妙な方向へ盛り上がり、昔の記憶で間違った方が相手を叩こうじゃないか・・ってことになりましてね」

「ほう! 妙なゲームだな。それで…」

「はい、始めのうちは間違っても遠慮して、どちらも軽めに叩いてたんですがね」

「それで…」

「次第に力が入ってきて殴り合い寸前になり、私が殴りました」

「それで下山さんは意識を失ったんだな。酒の上とはいえ、訴えられれば傷害事件だぞ!」

 寝袋は少しおどかしぎみに語気を強めた。

「はあ、覚悟はしてます…。それで下山は?」

「まだ意識がもどらんそうだが、詳しい情報はあとから連絡が入る」

「そうですか…」

 数時間後、病院からの電話連絡が縦走署に入った。

「もう帰っていいですよ。下山さんの意識が戻ったそうです」

「…」

「あなたが叩いたからじゃないそうです。なんでも、持病の癲癇てんかんが出たそうです…」

 傷害事件を想起させる偶然の一致だった。寝袋の態度は一変し、客扱いになっていた。


                  完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ