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-36- 雨夜の通報

 高島田たかしまだ署の取調室である。通報のあった日の夜は雨が降っていた。害者はいわいという中年男だった。捜査一課の老刑事、文金ぶんきんは手持ちの鏡とくしで頭髪をでつけながら、参考人で呼ばれた目撃者の和式わしき対峙たいじしていた。

「害者が転んだのを見られた訳ですね?」

「はい。ものの見事にスッテンコロリと…」

「ということは、本人の過失による事故だと言われるんですね?」

「はい。まあ…。なにぶん距離があったもんで、しかとは断言できませんが、ご本人以外、人影はなかったと記憶しております…」

「そうですか! いや、お手間をおかけいたしました。今日のところはお引取りいただいて結構です。また、なにかありましたらご連絡を差し上げます」

 文金は櫛で髪の毛を撫でつける仕草を止めることなく、器用に語った。一礼して和式が取調室を出たあと、文金は櫛を背広の内ポケットへ仕舞い、あんぐりした顔で立った。

「文さん、やはり事故ですかね?」

 若手刑事の仲人なこうどが後ろから文金をうかがいながら言った。

「まあ、今の話からするとな…」

「しかし、あんなところで転びますかね、フツゥ~」

「目撃者が転んだと言ってるんだから、転んだんだろう」

「あっ! 病院から電話が先ほどありました。害者…というか、転倒者の意識がもどったと」

「ほう、それはよかった。やはり事故かねぇ~」

「ええ…。聞き込みでは憎まれているような人物ではないですからね。傷害事件とは考えにくいですよね」

「火葬場へ着く前に霊柩車の運転手が転んで死んじゃ、ははは…笑い話だ」

「あの世が困りますよね」

 仲人も笑った。

 次の日である。高島田署の捜査一課に記憶が戻った病院の祝から電話が入った。私が不注意で転んだ・・という電話だった。

「そうですか…」

 一課長の大安たいあんの報告に、文金は予想通りだ…とばかりに、れなく返した。すでにこのとき、文金と仲人は、そんな一件に付き合っていられない・・とばかりに、別の事件捜査にかかっていた。


                   完

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