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-35- 天秤(てんびん)小僧

 現代でも怪盗はいるものである。天秤てんびん小僧参上! という格好いい時代劇風の張り紙を残し、天秤小僧は世の中で動き、そして流れる邪悪な資金を根こそぎ奪い取り、今日か明日か…と切羽せっぱつまった中小零細企業や工場に振り込む・・という、ある種、振り込め詐欺の逆バージョンをミッション・インポッシブルで実践じっせんする者として全国民的アイドルになりつつあった。警察も盗られた金を調べると、賄賂ワイロ、不正資金、だまし金・・などといったよこしまな金の流れが分かり、盗られた! と通報した側を逮捕する・・といった事例が目立っていた。そうなると、次第に邪悪な資金を世で動かしたり流している側は、盗られたあとも盗難届を出しにくくなっていく。実は、天秤小僧の真のねらいはそこにあった。まさに現代の救世主的なねずみ小僧だった。

 海波うみなみ署である。いわし刑事が平目ひらめ警部と話していた。

「課長、脱税ですよ、きっと…」

 内部留保でたくわえた不正資金を盗られた企業からまた、警察へ一報が入った。この企業はしたたかで、公正証書原本不実記載の証拠を完全に隠滅したあと、警察へ届けたのだった。

「ああ…。しかし、なぜ分かったんだろうな。天秤小僧をこの席へ座らせたいものだな。ヤツは鋭いっ!」

 平目は低い声で言った。

「ですよね。邪悪な不正資金ですから、法理でいえば存在し得ない資金を盗ってくばるんですから、かすみを盗って食べるようなもので・・天秤で±[プラスマイナス]をなくす話です」

 鰯は少し興奮ぎみに声を大きくした。

「ああ…。天秤で格差社会をなくす天使か仙人みたいなヤツだ。ははは…経済学者のケインズも真っ青だな。ただ、コレはくまでも・・飽くまでもだよ、風のうわさで聞いた話だが、聞いた話だよ、君」

「ええ、聞かれた話ですとも」

「うんっ! 不思議と倒産をまぬがれたり、経営が立ち直る企業や工場が目立っているそうじゃないか」

「そのようです…」

 口でそう言いながら、二人はひそかに届けを出した会社の捜査を考えていた。


                   完

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