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-32- 有難い交番

 交番に日参しては土下座し、交番前の片隅で半時間ばかり平伏する男がいた。交番の高科たかしな巡査は、始めは見て見ぬふりをしていたが、その男が雨の日も風の日も休まず日参するものだから、半月ほど経ったある日、ついに交番椅子から重い腰を上げた。

「あんたね! こんなところで風邪をひくよ。礼拝かなんか?」

 高科の言葉に、男は相変わらずひれ伏したまま首を横に振った。

「違うのか…。じゃあ、なにか訳でもあるの?」

「有難いんです…」

 ひれ伏したまま、男は小さな声でつぶやくように言った。高科には男の言った意味が分からなかった。それに少し事件性がなくもない…と思えた。

「どういうこと?」

「この交番が有難いんです…」

「交番が有難い? …」

 高科は益々、分からなくなった。

「よく分からないからさぁ~中へ入って聞くよ。まあ立ち話・・いや、座り話もなんだから…」

 高科はとりあえず男を立たせようとした。

「あとからにしてください。もう、10分ほどですから…」

 平伏したまま男は高科に話し続けた。まるで地面と話してるようだ…と高科は思ったがそれは思うにとどめた。

「そうかい…それじゃ、あとで」

 そして10分が経過したとき、男は静かに地面から立ち上がると自分の意思で交番へ入った。

「まあ、座って。聞こうじゃないか、その有難い訳とやらを…」

「実はこの建物のおかげで私は死なずに済んだんです…」

 話によれば、高科がここへ赴任する数年前、男は生活苦から生きる気力を失い、自ら命を絶とうとしていた。それが、前任者の低居巡査から投げなしの金をもらい、死なずに済んだのだという。

「そうだったのか、低居巡査のお蔭で…」

「いえ、話にはまだ続きがあるんです」

「んっ?」

 高科はいぶかしそうにその男の顔を見た。男は静かに語った。

「私はそのお蔭で立ち直ることが出来ました。それからというもの、この建物がどういう訳か、低居さんに見えて有難いんです…」

「建物が…?」

 それ以上はたずねず、高科は奇妙なサスペンス風の男を帰した。


                   完

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