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-30- コトのなりゆき

 島国しまぐには今年、猫川署に配属された若者である。同時に赴任した国境くにざかいとは、私的には友人だったが、署内では何かと意見が対立するライバル関係にあった。

 ようやく暖かくなり始めた早春の朝、梅がほころぶ盆梅展で丹精込められた樹齢数百年の老梅の大鉢が何者かによって持ち去られるという奇怪きっかいな盗難事件が発生した。奇怪というのは、警備の係員がいたのだから、展示中は盗られることはまずない…と考えられるからである。盗られるとすれば閉館から開館までの間だが、島国と国境の懸命の聞き込みにもかかわらず、コレ! といった確実な情報は得られなかった。二人から捜査報告を受けた課長の海上うみうえは、いぶかしげに首をひねった。

「… まあ、そのうち足が付いて、何かつかめるだろうがな…」

「私もそうは思いますが…」

「いえ、それは無理でしょう…」

 島国は肯定したが、国境はキッパリと否定した。

「どうしてだ? 国境」

「いや、どうも売りに出る品じゃないと思っただけです」

「というと?」

「私は愛好家の誰かだと思ってるんですよ。それも出入りが自由な内部の関係者の周辺かと…」

「ほう! 鋭いっ!」

 海上は感心した。ライバルの島国はチェッ! とばかりに、渋い顔をした。国境に、してやられた…という顔である。

 数日後、また奇怪な事件が起こった。盗られたはずの梅の大鉢がまるでマジックを見るかのように同じ位置へもどっていたからだった。移動した形跡、物証も皆無で、鑑識や科捜研もポカ~ンとした。そして、事件は事件にもならず、未解決のまま幕引きとなった。今では、宇宙人の花見・・という奇妙な一件として語り継がれている。

 ここだけの話だが、拝借したのは管理人の爺さん、陸大りだいで、コッソリと頼み仕事でプロに運ばせ、寝起きを共にして楽しんだあと、また返却させた・・というのがコトのなりゆきの事実である。


                   完

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