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-3- 消えた竹輪(ちくわ)

 庶民的な話である。

 山辺は竹輪ちくわをツマミにしてチューハイを一杯やるのが好きな典型的な親父おやじタイプの男だった。ツマミの竹輪に山辺は一種独特のこだわりをもっていた。少し焼き、開いた穴にマヨネーズをグニュ! っと絞り入れ、それをウスターソースに軽く付けて味わうというものだ。その山辺が休日のある日、いつものように楽しみにしていた竹輪を冷蔵庫から出そうと、イソイソとキッチンへ現れた。ところが、この日にかぎり、冷蔵庫の中にはなぜかいつもの竹輪が入っていない。山辺の記憶では数袋は買い置きしていたはずだったから、これは消えた・・としか思えなかった。家族の者が食べたとしても、数袋を全部食べてしまうとは考えられなかった。消えた竹輪事件である。山辺はさっそく、捜査を開始した。まずは目撃者の割り出しである。この日は日曜だったから、皆は…と、山辺は家族のアリバイ[現場不在証明]を調べることにした。

「なに言ってるのよ! 私は深由みゆと買物に行ってたでしょうが…」

 山辺がたずねると、妻の香住かすみはあなた知ってるでしょ! とでも言いたげな口調で返してきた。

「ああ、そうだったか…」

 とすれば、残るは山辺の父で去年、卒寿を迎えた彦一だった。アレはあやしい…と刑事癖が出たのか、山辺は自分の父親を内心のタメ口で疑った。

「馬鹿は休み休み言いなさい! 私がそんなミミちいことをする訳がなかろうが! お前というやつは…」

 山辺が訊ねると、彦一は情けなそうな顔で息子を見ながら強めに言った。山辺は、消える訳がないのだから妙だ…と首をかしげた。とすれば…と考えを巡らせたが、山辺の見当はつかなくなっていた。捜査は暗礁あんしょうに乗り上げたのである。仕方なく、その日は油揚あぶらあげを軽く焼いて醤油で味わうというツマミで済ますことにした。ところが、コレがまた、けっこうイケたのである。山辺はコレもアリか…と親父風に思った。

 次の日の警察である。

「課長、コレ忘れてましたよっ!」

 署に着くなり、山辺は係長の堀田に愚痴られた。堀田の手には数袋の竹輪が握られていた。

「おっ! おお…有難う」

 バツ悪く、山辺は小声でそう返し、背広の内ポケットへ竹輪の袋を押し込んだ。犯人は山辺のド忘れだった。


                        完

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