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-28- 重いような軽い話

 正直なばかりに損ばかりして、かろうじて世を渡っている、時代に取り残されたような男がいた。男の名は我道がどう進という。

「お前なっ! もう言いのがれは出来んぞっ! 悪いことは言わん。ここらが年貢の納め時だ・・と思って吐けっ!」

「あの…お言葉ですが、僕はきちんと税金は払ってます」

「…屁理屈をねるやつだ。たとえ! たとえを言ったまでだっ!」

 刑事の糠漬ぬかづけ重石おもしをさらに乗せるかのように我道を責めつけた。

「でも、僕はそんなことは一切、やってません!」

 正直者の我道は真実を言っていた。どう考えても三軒隣の漬物石を盗む必要など自分にはない…と我道には思えた。あんなもの盗って、いったいどうするというんだ…と我道は取調室の椅子に座りながら、また考えた。

「しらばっくれるなっ!! お前を見たという確実な目撃情報もあるんだっ!」

 署内で「落しの糠」とささやかれる凄腕の刑事である。そのことが返って糠漬のプレッシャーになっていた。

「まあ、遅くなったから、続きは明日あしただっ」

 ひと晩、明けた朝、糠漬の態度が豹変ひょうへんした。

「あっ! 我道さん。どうもすいませんでしたっ。先方の飛んだ早とちりでしてね。漬物石は親元に返したのを、うっかり馬鹿嫁が忘れてましてねっ。ほんとに馬鹿ですよ、大馬鹿嫁!! お蔭で私まで署内のいい笑いものになってしまいましたよ、ははは…」

 なにが、ははは…だ! と、さすがに我道も少し怒れたが、そこは馬鹿を見ることに馴れている我道である。グッと我慢して、思うに留めた。

「そうでしたか…」

「ああ! もう帰っていただいて結構です。ご迷惑をおかけいたしました」

 糠漬は重いような話を軽い話に変えた。僕を見たという目撃者の下りはいったいどうなったんだ? と正直者の我道は署の出口で、ふと疑問に思った。


                   完

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