-23- 天下な裁判
法廷である。検事の笹山と弁護士の南宮が対峙して民事裁判に臨んでいた。裁判長の子早川は初めて裁判長を受け持つことになった若手で、左右の老練な裁判官はその不手際な発言のたびに、裁判長の顔を見て咳払いで間違いを指摘していた。弁護席の前の被告席には被告の関原が座っていた。関原は大欠伸をしながらどうでもいいような顔で証言席に立つ原告側証人、浮田の証言を聞いていた。
「そうすると、被告は大根を齧ったんですね?」
「はい! ボリボリと…」
「尋問を終わります!」
笹山はしたり顔で自信ありげに南宮を見て、検事席へ座った。
「弁護人、質問は?」
眠たそうな声で子早川は弁護席の南宮に言った。
「はい。…その大根は現場では発見されてませんが、それはどう説明されます。葉のついた大根を丸ごと一本、被告が食べたとは、到底、考えられませんが…」
南宮は立つと、浮田を尋問で攻めた。
「いや。そう言われても…。鳥かなんかが…」
浮田は南宮の尋問にたじろぎ、引いた。
「いえ、それは考えられません。被告がシゲシゲと出来のいい大根を見ていたのを、齧っていると錯覚されたんじゃないですか?」
南宮は、なおも浮田を攻め立てた。
「そう言われれば…」
浮田は、ついに敗走した。
「異議あり! 裁判長、誘導尋問です! 撤回を求めます」
スクッ! と笹山は検事席から立ち、怒りぎみに裁判長の子早川に訴えた。そのとき、子早川は眠気でウトウト…と首を項垂れつつあった。そんな小早川を見て、左右の裁判官は両側から大きく咳払いをした。その咳払いにハッ! と目覚めた子早川は、どうしたの? とばかりに左右の裁判官を交互に見た。
『…却下』
左右の席から小声が聞こえた。
「却下します! 却下、却下!」
子早川は左右に倣えで、却下を何度も口にした。
「以上です…」
引き際よく、南宮は質問をやめ、弁護席へ座った。
結審し、判決が申し渡されたのは数週間後だった。検察の敗訴、いや、それ以前の訴訟の不当性が認められたのである。言うまでもなく、関原は無罪放免となった。その後、検察は上告したが、上告は棄却され、南宮の天下な裁判で終結した。
完