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-2- 追われて追う

 中年にさしかかったサラリーマンの秋村は、なぜか最近、いそがしさに追われていた。ただその原因がつきとめられない。秋村はあせっていた。考えられるとすれば、数週間前に路上でバッタリと出食わした一人の老人だった。その老人は秋村と同じ方向へ歩いていて、必死に動こうとしていた。だが、体が不自由なのか少しづつしか歩めないようだった。それでも懸命に前へ進もうとしていた。秋村はその老人を見て速度を落とした。あわれに思えたのだ。自分もいずれはこうなるのか…という気持も少なからずその中に含まれていた。

「おじいさん! お急ぎでしたら、僕がおんぶしましょうか?」

 老人は突然、声をかけられ驚いたが、背広姿の秋村を見て安心したのか、笑顔になった。

「えっ?! そうですかな。そらぁ~助かります。そこの駅までで結構ですから…」

 秋村もその駅に向かっていたから、すぐ話はまとまり、老人を脊負った。この段階で秋村はまだ忙しさを、さほど感じてはいなかった。

「体が動きませんとな、どうもあせって困りものですわい」

「ははは…そんなものですか。僕には分かりませんが」

「犯人は老いですが、見えませんからな」

「えっ? ははは…そうですね」

 秋村は老人を背負い、駅構内へ入った。

「ああ、ここで結構ですわい。御親切な見ず知らずの方、どうも有難うございましたな」

 秋村は老人の言葉のあと老人を下ろし、お辞儀して分かれた。その後はいつものように、同じホームの通勤電車に乗った。秋村は電車に揺られながら、ほんのわずかながら、いい気分がした。考えられるとすれば、秋村が忙しさに追われるようになったのは、それ以降である。秋村はどこの誰かも分からないその老人をさがすことにした。その老人が現れるとすれば、駅しかない。老人が秋村が乗り降りする駅から乗ったというのは、この駅周辺になんらかの行動の根拠があったからだ・・と考えたのだ。老人が犯人という訳ではないが、脊負って以降、忙しくなった気分は秋村としては返したかった。フツゥ~の場合、いいことをすれば、いいことが起こるとしたものだが、真逆なのである。

 刑事の張り込みのように秋村はいささか憤懣ふんまんおぼえながら毎朝、その老人の出没を駅周辺で見張るようになった。お蔭で秋村は朝が早く起きられるようになった。見張りのため、家を出る時間が30分ばかり早まったためだ。それがいいことだといえば、いいことだと言えなくもなかった。秋村は今朝も忙しさに追われるようになった原因の老人を追っている。


                        完

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