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-14- 疲れても…

 すでに定年近くなった刑事の盛岡正は犯人を追っていた。それも数十年という長い期間である。そして今もおふだの写真一枚を手がかりに追っていた。盛岡はお札の神社で聞き込んだが、どうもにせのお札らしかった。追っている相手は捜査本部が開かれるほどの重大事件ではないただの窃盗犯である。だが、盛岡は追っていた。手がかりとなるのは犯人が落としていった一枚のお札だけだった。今の事件捜査をしているときも、必ず最後にその窃盗犯が落としたお札の写真を見せてたずねた。

「そうですか…どうも。あっ! それから、このお札、見たことありませんかね?」

 盛岡は背広の内ポケットから、お札を撮った写真を見せた。

「さあ…? 見ませんね」

 かれた店の主人は軽く否定した。

「いや、どうも…」

 そう言われては仕方がない。まあ、盛岡も余りアテにはしていなかった。なんといっても追っているのは数十年だ。奇跡でも起こらなければ恐らく無理だろう…と思っていた。盛岡はすっかり疲れていた。身体だけではない。心身ともに疲れ果てていた。それでも盛岡は探し続けていた。その理由は・・。盗られたのは盛岡が大事にしていた宝箱だった。その箱は子供の頃から大事にしている箱だった。中にはガラスの色つきビー玉やメンコ、コマなどが入っていた。そんなものを盗る窃盗犯などいないのだが、生憎あいにく、その箱を手提げ金庫へ入れておいたのがいけなかった。犯人はそれを盗っていったのだ。刑事が自宅に窃盗犯に入られた・・などとは口が裂けても言えない。だから、盗難届けは出ていなかった。そうなれば、盛岡には窃盗犯だが、勤める警察は一切関知せず、事件になっていない事件なのである。だからよけい盛岡は疲れていた。それでもその箱を取り返さねば…と盛岡は思っていた。たとえ、定年になろうと疲れても…と、盛岡の決意は固かった。

 余談ながら読者の方だけに、その箱の在処ありかを教えておこう。実は、犯人はその金庫の中の箱を開け、なにか感じるものがあったのだろう。ひそかにその金庫を盛岡の家へ返しに来たのだった。ただ、その置き去った場所が庭石の下で死角となっていた。だから当然、盛岡はその場所を知らず、疲れても…探し続けているのである。


                   完

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