表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/100

-11- ざわつく風

 いやに今日は風が強いな…と思いながら、刑事の大川は犯人、小舟を潜伏先のアパートの通路で見張っていた。その横で大川付きの若い刑事、浅瀬はさっき買った焼き芋を美味うまそうに頬張ほおばっている。よくこんなときに食えるな…と腹立たしく思えた大川だったが、まあ、若いから仕方ないか…と、見て見ぬふりを決め込んだ。昨日きのうの深夜、小舟がアパートにもどっていることは、すでに調べがついて分かっていた。あとは取り逃がさず手錠をガチャリとやるだけだった。それが踏み込もうとしたとき、浅瀬が芋を食べだしたから、中断したという訳だ。世の中、一瞬のすきというのは恐ろしい。そのわずかな間に小舟は裏の窓からアパートのベランダを伝って逃げ出していたのである。

「…もう、いいかっ!」

 大川が浅瀬にそう告げたとき、小舟はすでに向かいの家の屋根に飛び移り逃走していた。

「もう、逃げられんぞ! おとなしく出てこいっ!」

 管理人に前もって借りた合鍵を鍵穴にさし、大川は叫んだが、中から返答はない。あわてて大川はドアを開けたが、部屋の中はもぬけからだった。大川は、しまった! と思った。窓が開いていた。

「おいっ! 外だっ!」

 浅瀬に叫ぶように言うと、大川は部屋を急ぎ出て、通路から鉄製階段を走り下りた。当然、浅瀬も続いた。そのとき、一陣の風がざわつくようにまた強く吹き始めた。どういう訳か犯人の小舟はその風に吹きもどされ、狭い小路を進めないでいた。大川は小路で小舟の後ろ姿をついにとらえた。だが、大川もどういう訳かざわつく風に一歩も小路を前へ進めなかった。もちろん、浅瀬も同様である。

「待てっ~~小舟! 俺の買ったウナギ弁当をどこへ隠したっ!」

 大川は風に戻されながら叫んだ。

「へへへ・・馬鹿野郎! 腹の中だよぉ~~!」

 小舟も風に戻されながら叫んだ。

「ちきしょ~~~!」

 大川は追うのをやめた途端、ざわつく風に吹き飛ばされた。

「ざまぁ~みろ!」

 小舟も油断して動きを止めた途端、ざわつく風に吹き飛ばされた。 


                    完

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ