-100- サイバーマン
世の中にはサクッ! と軽く、サクッ! とノルマ分の捜査を熟し、定時には消えていなくなる・・そういう割りきったサラリ-マン捜査を心がける刑事もいる。捜査第二課の軽井がそうだった。軽井は今の時代、注目度が非常に高い知能犯捜査の係に配属されていた。いわゆるサイバー犯罪対策班の一員としてである。軽井は緻密な頭脳に恵まれ、電子機器関係は学生当時から得意としていたから、その腕を買われた・・ということである。
「それじゃ、私はこれで…」
同僚の刑事は、なんだ、もう帰るのか…といった呆れ顔で席を立つ軽井を見た。軽井が課を出て去ると、課内は少し雑然とした。全員、疲れが溜まっているようで、首を回す者、肩を片手で叩く者といった按配で、俄かにダムから放水されて流れ落ちる水に似ていなくもなかった。
さて、軽井はその後、どこへ消えたのか・・読者の方々も、その辺りを注目されておられると思うので、はっきり言わせていただくが、軽井は極秘基地にしているアパートの一室へと消えたのである。そこには、なんと驚くなかれ、まだこの世には存在しない秘密電子機器の幾台かが置かれていた。この装置を使えば捜査第二課など真っ青の犯人潜伏場所が、ただちに発見できたのである。軽井はその場を匿名で二課の同僚へ通報し、逮捕させた。彼こそが表面ではサラリーマン捜査をやりながら、その実態は、犯人のアジトを探る正義の味方、スーパーマンならぬサイバ-マンだったのである。軽井は一時間後、今度は捜査員の軽井として課へ電話した。
「ハハハ、ハハハハハ…」
犯人逮捕に今宵も軽井の勝利の雄叫びが、アパートの一室に谺した。
完