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-10- そうか…

 三神は風呂上りにテレビドラマを観ていた。長官官房付きでなに不自由なく働くエリート審議官の一人として、将来をほぼ100%約束された三神だったが、局長と課長の間に位置するポストで繰り返されるなおざりな日々に少しわずらわしさを覚えるようになっていた。

「三神さん、大変です!」

 部下の一人、神輿場みこしばが血相変えて審議官室へ入ってきた。

「どうした!」

「ぅぅぅ…日傘ひがさが閉店するらしいです!」

「そうか…えっ! なんだって! あの日傘がっ!」

 日傘はウナギの専門店で三神達の行きつけの店として公私共に重宝ちょうほうされていた。ときには職員間の懇親会、またあるときは極秘裏の公務の打ち合わせにと活用されていたのである・・というのは建て前で、実は日傘のウナギ料理は、どれもほおが落ちるほど絶品で美味うまく、しかも安かったのである。最近の三神にとって、コレを食べるのが唯一の楽しみで生きているといっても過言ではなかった。

「ど、どうしてだっ!」

 三神は怒ったようにたずねた。

「いや、それが聞いた話で、どうもに落ちないんですよ」

「そうか…いや、なにがっ?」

「倒れた店主が元気になったのはいいんですがね、急に店をたたむ・・と言い出したそうなんですよ」

「そうか…それは妙だな。なにか裏があるぞっ!」

「どうします?」

「すぐ極秘で調べてくれ…。あの店がないと、いろいろと不都合だっ」

 三神は組織が困ることを暗にいったのだが、そのじつ、安くて美味いウナギが食べられなくなるのが困るのだった。

 そして一週間がまたたく間に過ぎ去った。

「分かりました…」

 神輿場がやや明るい顔で審議官室へ入ってきた。

「どうだった?」

「ははは…私の早とちりでした。店は一端、閉めるそうですが、ナマズ専門店で出直すんだそうです」

「そうか…理由は?」

「天然モノが品薄で対応できないそうでして…。店主の話によれば、味を落としてまでは・・とかだそうです」

「そうか…だが、それは困る。ウナギがナマズじゃいろいろとまずいからな。引き続き、なんとかならんか調査してくれ…」

 三神は暗に会合に影響が・・とでも言いたげだったが、その実、美味いウナギに未練たっぷりだったのだ。三神は今朝も、そうか…と言いたげに、神輿場の朗報を待ち続けている。


                    完

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