二通の招待状①
第5章です。
本日は、二話同時更新です。
ですが、前話はこれまでの登場人物紹介なので、戻らなくても大丈夫です。
では、新たな章もよろしくお願いします。
休養地からの帰りは、朝陽が昇るより早く出発したため、行きと違ってその日中に城につく事が出来た。
だが夜も遅くなっていたので軽く飯をもらい、それぞれ体を休めて、王との面会は翌日にする事にした。
そして、馬車の揺れで痛めた尻の疼きを、気にしていれないくらい泥のように眠った翌朝。
「王さま。おはよう」
「父上。おはようございます」
「二人とも、おはよう。昨日は遅かったようじゃが、良く眠れたかの」
「俺はぐっすり。アルバンは?」
「私も充分に体を休める事ができました」
俺は、アルバンやおっさんと一緒に朝飯を食っていた。
3人がいつもの席に座ると、侍女達が俺達の前に皿を並べていく。
と言っても、日本のような「ブレックファースト」とか「和朝食」みたいなもんじゃねぇ。
固めのパンに、大皿に盛られた野菜と肉団子スープ、そのくらいだ。
もう慣れたが、最初の頃はなんじゃコラ、と思った。
だがその後で、シクステンに師事してから騎士団の食事を食べる機会があって、アレに比べりゃパンも上質でお代わり自由だし、望めば果物だって出してくれるんだから、充分上等だと感じた。
婚約披露イベントやら特別訓練イベントで用意された食事はそれなりに豪華だったんだから、贅沢はここぞというときにする方針なのかもしんねーな。
まあ、日本食たべてーなとか、やたらと肉料理多いな、とか思っちゃうけどな。
「んじゃ、いただきます」
両手をあわせてから、早速肉団子スープを頂く。
……はふう。
肉も野菜も味が染みててうまいぜ。
それに、寒い朝で冷えた体に、この温かさはたまらん
「アキラ。父上との話は始まってもいないのだぞ」
アルバンが食事前の祈りを終えて、俺を呆れたような目で見ていた。
ん?
ああ。帰城命令の話の事か?
だが、おっさんは笑ってアルバンを止めた。
「その話は後でしよう。マーシャルにもいてもらわねばならぬからの」
その言葉に、アルバンは何かを察したようで少し顔を強ばらせていたけど、俺は安心してパンをとってもらい、ちぎってスープに浸して頬張った。
「うん。今日もうめぇ」
「……全く、お前は……」
「ん?なんだよ」
「構わぬ、構わぬ。じゃが、3人が揃って話すこともなしとは、流石に寂しいのう。アルバン、アキラ。ゆっくりと休養は出来たかの。良かったら聞かせておくれ」
……そういや。おっさん、おふくろさんや双子やユーリアさんとしばらく会ってないんだもんな。
朝食の間の短い間だったけど、俺とアルバンで色々話をしたのだった。
「ご無沙汰しておりました。アルバンさま。アキラさま」
朝食が終わって、移動した応接間で宰相のマーシャルも合流する。
「休養中でございましたのに、お戻り頂きまして有難うございます」
「充分に休めたし、母上達に、アキラの顔を見せる目的は果たせた。気にすることはない」
「俺もこれ以上だらだらしてたら外に出たく無くなっちまうかも知れねーから、ある意味これで良かったぜ」
「……有難うございます」
反応に困ったような笑顔を浮かべたマーシャルは、おっさんの「早速説明せよ」という指示に真顔になった。
「実は、アルバンさまとアキラさまに二通、招待状が届いております」
「招待状?」
「二通だと?」
俺たちは違う点で、マーシャルに聞き返したのだけど、マーシャルは頷いた。
「先に届きましたのは、カハラ聖国のマエスタ教団からでございます」
「……ええ~」
思いっきり顔をしかめた俺に、他の3人が不思議そうな顔をした。
「アキラ、知っていたのか?」
「いーや?だけど、教団っていうからさぁ。……何でだろうと思って」
「そんな顔では無さそうだが」というようにアルバンは俺を見続けたが、結局何も言わすにマーシャルに続きを促す。
「この招待は、どちらかと言えば、アキラさまにお出で頂きたいようですね……アキラさまはこの地に来臨された神の遣い……。違う神とはいえ、神に遣える者としておもてなしをさせて頂きたいと……」
「うさんくせぇ」
「アキラ!」
益々顔をしかめて吐き捨てた俺を嗜めるように、アルバンは声をあげた。
俺はそれを無視しておっさんに向き合う。
「カハラ聖国ってのは、宗教がトップ…一番偉いのか?」
「いいや。確かにマエスタ教発祥の国じゃから、勢力は強いがの。王族のいる王政制度の国じゃよ」
「じゃ、その教団と王族は、はっきり別れてんの?」
「………それは、なんとも言えんな。カハラ聖国の成り立ちに、どちらも最初から関わっておるしの」
おっさんはざっくりと成り立ちを説明してくれる。
「おう……ファンタジー」
「ふぁんた…じぃ?」
「ああ、ごめん。なんでもない。ってかそっか。古くからそうなんだ」
「形では別れておるがの。最初から交わっておらぬとは言い切れまい」
「ふーん。じゃあ、王さまに聞くけどさ。俺がその招待を受けなかったら、なんか不味いことになる?」
「そうじゃの。……全くないとは言い切れぬが、些細な事じゃ」
「え。何、やっぱり行った方がいい?」
王さまが穏やかな顔のままでそう言うもんだから、念押しで、マーシャルにも聞く。
「アキラさまのお心のままに。確かに、カハラ聖国で勢力がある教団ではありますが、それは彼の国の中での事。我が国には何の関係もないことでございます。多少、面白くないという気持ちがあっても、他国の王族に面と向かっては言いますまい」
マーシャルはツンとした表情で言い切る。
「それに、神が自ら遣わせたアキラさまを呼び寄せようなどと、不遜なのです」
「おいおい。俺をそういう風に言うなってば。……宰相さん。結構、毒あんな」
何度も言葉を交わして、マーシャルが少し冗談を交えて言ってるのはわかってるので、俺はうっすらと笑った。
「じゃ、俺が決めて良いんだよな?」
おっさん、マーシャル、ついでにアルバンに視線を向けると、3人は頷いた。
「んじゃ、その招待はお断りって事で」
「ん。アルバンも良いかの」
「はい」
「では、マーシャル。そのように」
「畏まりました」
一呼吸、落ち着いたところで、アルバンは口にする。
「ーアキラ。お前は、カハラ聖国の何かを知ってる訳でもなさそうなのに、何故、そんなに即断するのだ」
俺は目をパチパチさせて、アルバンを見返す。
「んなの決まってるだろ?変に力をもってたり、政治に絡んでる宗教集団には、近づきたくねーからだよ」
この後に、アキラの宗教感と距離の取り方について、アルバンとのやりとりがあったのですが、「宗教」の話ですし、蛇足になりそうなので、バッサリ切りました。
え?なにそれ?とお感じの方もいらっしゃるでしょう。
ざっくり言いますと、
「宗教というより、信仰する人の強すぎる思いが引き起こす災いってのは時に厄介で、巻き込まれたくないから、用もないのに自分から近づきたくない」
アキラは現代日本生まれなので、宗教がらみの歴史や現在のISみたいなのを知っているため、そんな思いになっている、と感じです。
これも、蛇足情報……かな。
次は、招待状二通目の話です。




