避暑地へ①
遅くなりました!
4月中に更新することが出来ました!
当日中に修正と追記致しました。
☆★☆★☆★から先が追記部分です。
すごく長くなった上、更新直後にご覧になった方には申し訳ありません。
カッカッカッ……
ゴトゴトガタゴト……
舗装されていない道を進む音。
カッカッカッと軽やかな音は、アルバンやベセル等護衛騎士達を含む騎馬集団の音で、比べて重そうなガタゴトってのは、俺やラウニを載せたものや荷物を積んでる馬車の音だ。
俺はガクンガクンと揺さぶられながら、この乗り心地の悪さと蒸し暑さに辟易し、自分の選択に反省していた。
きっかけは、シクステンが一旦この国を離れると言い出した事だった。
「ザルビナ国に行く」という理由を聞いて、神変調査官だというのを思い出す。
事件の時の話や訓練で手合わせばかりしているせいで、武道家かと思い込みそうになってたけど、そう自己紹介されてたんだった。
シクステンの本職だし不可侵の職業だっていうから、調査の内容や進み具合なんて口にしなくて当たり前だからすっかり忘れてたぜ。
それは置いといて。
そうと決めたシクステンはやっぱり真面目で、自分がいない間のトレーニングメニューを考えてくれていた。
だから、旅立った後も困ることはなかったのだけど、独りでもくもくと鍛練してるのは張り合いがなかったんだ。
そんな俺に気づいてたんだろうな。
アルバンが、気晴らしに避暑地へ連れてってくれることになったんだ。
場所は、前にご褒美だと言っていた正王妃の静養地だ。
ラウニにどんなところなのか聞いたら、近くに綺麗な池があるらしい。
この夏場に水の近くに行こうって言われりゃ、わくわくしちゃうもんじゃね?
アルバンは、前からの約束とはいえあの事件の近くでもあるし、少し気を使ってくれたんだけど、そもそも、事件現場っつっても俺にはそこにいた自覚がいまだにねーんだから、気にすることは何もねーよ。
そーゆー事で、ガタゴトと馬車に揺られて向かってるところだ。
「なあ、ちょっと顔出していい?」
馬車は宰相が手配したものだ。
だけど今回の移動は非公式だから、要人用にガッチリしてて見映えのいいものじゃない。
窓もあるけど防犯の為か小さくて、換気の為に開けていても入って来る風の効果を感じられない。
同乗してるラウニが団扇みたいなもんであおいでくれても、その風すらぬるい。
「一応、お気をつけ下さいませ」
仕方ないといった表情でラウニが応えた。
中が覗かれないよう窓を覆う幾何学模様のレースをずらすと、それだけでも風の通りが違う。
それでも俺は窓から顔を出して、更に風を楽しんだ。
ぷはあ。
やっぱり、外の風は良いぜ。
「姫さん、なんていう顔をしてらっしゃるんです」
ぷはぁ顔の一部始終を見ていたらしいネイトが、俺の視界を遮るように馬を寄せてきた。
「あ、景色見れねーじゃん。何すんだよ」
「何度も言いますが、姫さんは大事な御方なんですよ。それに、日が直接当たるでしょう?」
なるほど、万が一の壁になってるのか。しかも、影を作ってくれてるわけね。
「しょーがねーなぁ」
「ご理解頂けて、何よりです」
馬車の中の閉鎖的な空間よりはましだ。
風は当たるし、景色はまあ見えないこともない。
のんびりいくべ、と再び意識がふにゃりとなった途端。
…ガタン!
小さい小石を踏んだのか、馬車が大きく揺れた。
窓枠に寄りかかっていた俺はその揺れに顎を軽くぶつけて顔をしかめる。
「…姫さん、今からでも王子の馬に乗りますか?」
ばっちりとその様子を見ていたネイトは幾分心配そうに話しかけてきたが、俺は首を横に振った。
ここに来て、やっぱり馬車は嫌なんて流石にワガママすぎるっつーの。
馬での移動なら、俺を乗せても丸一日程度で着くらしいけど、馬車での移動になってスピードは落ち二日かかる予定になっている。
途中に村があるけど余りに小さくて、「王子一行」なんて団体が入って来てしまうと、キャパオーバーになってしまうらしい。
そういう時はその村に大きな負担をかけないように野宿するんだそうだ。
アルバンは騎士団を率いているのもあって慣れているが、問題は俺だ。
この国の交通手段に全く慣れていない俺が、野宿に堪えられるのか。そういう事も含めて、全員馬で移動する計画をたてたようなんだ。
早く言えよ……。
実は、今回の移動に俺が馬車を選択した理由の一つは馬の臭いだ。
わかってる。獣臭ってのは当たり前なんだよ。生きてるんだからな。
だけど言い訳させてもらえば、俺は馬をテレビでしかみたことないんだぜ?
最初は俺もテンション上がってイケると思ってたんだけど、実際に見てみたらでかいし熱いし臭いし未知の動きするし、いきなり本番ってのはやっぱ無理ってわかっただけなんだよ。
でも、馬に乗って見たいと思わなくなったわけじゃない。
ちゃんと教えてもらって、いずれ自分独りで乗りこなしてみたい、と思ってる。
側に寄ってきたお陰で臭いも存在も強くなったネイトの馬をじっと見つめた。
お前だったら、その時はよろしくな。
そんな事を心で思ってたって、もちろん馬に伝わる訳もなくスルーされ、ネイトはそんな俺にしばらく何か言いたげな表情を浮かべていた。
暑さを避けて昼過ぎから出発したせいで、あっという間に日が暮れていく。
少し前から街道から逸れて進む様子からすると、野営地は最初から決まっていて、全ては予定通りなんだろうな。
「姫さん、先に失礼します」
「アキラさま、私が側に」
日が暮れて過ごしやすくなった為、再び馬車に込もっていた俺に外から声がかかる。
その内容と馬の足音から察すると、ネイトが離れてベセルが側に寄って来たようだ。
わざわざなんで?とラウニを見れば教えてくれた。
「安全確保の為の偵察です。……国内は治安が良い方ですけど、万が一はあってはならないですから。でも、これはアルバンさまやアキラさまがいらっしゃるからと言うわけではなく、移動する者のほとんどが常としていることですので、そうお気になさらず」
大袈裟なとちょっと思ってしまったのが顔に出たのか、ラウニは優しく笑って補足する。
「じゃ、冒険者とか商人とか?」
「冒険者もそうでしょうね。商人は護衛を雇いますよ」
「ああ、なるほど」
そんな事を話しているうちに、馬車の揺れが少し大きくなり号令が聞こえてピタリと止まった。
「着いたようですね。…あ、アキラさま、まだ駄目ですよ。外から声がかかりますので、それまでもうしばらくお待ち下さい」
予想してました、とばかりに馬車の出入口扉を軽く抑え、出ようと腰をあげた俺を止める。
せっかちを見破られて、ちょっと恥ずかしかった。
「……アキラ。出てこい」
それから間もなく外からアルバンの声がかかり、ラウニも簡易鍵を解いた。
扉が開かれ、中の様子を伺うアルバンの顔が見える。
「疲れたか?」
馬車を降りる台が置かれ、アルバンが当たり前のように手を差し出す。
さすが王子サマ。エスコートが自然だせ。
だけど俺は、口に出してわざわざそこにつっこまねーよ。
馬車は初体験だから、当然甘えさせてもらう。
手を乗せ、支えて貰いながら馬車から外へ出た。
ふー。
馬車から出ただけ。それだけなのに解放感半端ネェ。
「アルバンさま。アキラさま。ひとまずこちらへ」
侍従のルーが木陰に作られた簡易テントへと先導する。ラウニは、荷物の置き場なんかを指示していみたいだ。
俺はアルバンと手を取り合ったまま移動する。
「アキラさま。ラウニもすぐに参りましょう」
テントの中に入れば、ルーは振り返っていた俺に気づいていて、二人分のお茶の支度をし始めながら微笑んでいた。
「夜を過ごす準備をしているのだろう。我々はここで待つのだ」
アルバンは俺の手を引きながら座り、軽く引き寄せるように力を込めた。
手伝いたいところだが、気を使わせちゃうな。
仕方ねぇ。おとなしく待つか。
アルバンの隣に用意されていたクッションに俺も座る。
「アルバンさま。アキラさま。お茶がご用意できました」
野営用のカップに温かいお茶が注がれ、目の前のトレーの上に置かれた。
夏でも温かい飲み物って、最初は戸惑ったけどもう慣れたもんだ。
そーいや、日本でもやたら冷たいのを飲むよりは、温かいのを身体にいいし汗も引くっていう言われてたな。
日が暮れてちょっと寒くなってきたし、ちょうどいーや。
しばし、二人でお茶を楽しんだ。
☆★☆★☆★
「オイ。いつから、コレが当たり前になったんだよ」
顔がひきつり眉がピクピクっと動き出すのが、自分でもわかる。
天幕が整ったとラウニが迎えに来て、俺はそこに向かった。
最初それを見たとき、一応この集団じゃアルバンと俺が一番高位だから、連れていかれた天幕が野営地の中で大きい方なのは当たり前かと思ったんだ。
で、中に入ってみたら、俺用の衣装箱やら道具箱とともにアルバンのもあって、しかも真ん中にはどーんと大きめの寝具が。
……………………。
……これって、俺とアルバンの二人で使うって事なんだよなっ!
天幕の前で、ほんのり顔を赤くしたベセルとちょっとにやけたネイトが立っている時点で気づけよ、俺!
っーか。なんで、当たり前みたいになってんだよ!
というわけで一人愚痴った俺に、ラウニは戸惑った顔を見せた。
「え?アキラさまが騎士団のアルバンさまのお部屋ご利用されていらっしゃるので……その……………お許しになられたのかと…………」
ラウニは最後の方でぽっと顔を赤くした。
俺かっ!俺のせいかーっ!
「わたしがお仕えできない間に、それほどに仲良くなられたご様子で……なによりです」とか、ちょっと嬉しそうに言うのはやめろっ。
そして、何かを想像したのか、更に恥ずかしそうに顔を赤らめてけど、ちょっと待てっ!
「あのなっ!言っとくけど、ヤってないからなっ!」
……更に墓穴を掘った。
目の前でラウニがこれ以上ないくらい顔を赤くしていく。
「アキラさま!大声でなんということを……っ!」
あ、やべ。どーしよ。
ワタワタしてドジっ娘モードになりつつあるラウニをどう落ち着かせようと考えていると、天幕の外で咳払いが聞こえてきた。
「あー、姫さん。大声は控えて。……その辺は王子と二人で話し合って下さい。ラウニさん、そろそろ落ち着きなさい。姫さんを休ませてあげなきゃならんでしょ」
「ネイト殿、差し出がましいですよ」
「そんな事言っても、あのまま筒抜けじゃマズイだろう?」
「ですが……」
ネイトの声がかかり、そのままベセルとやり取りが続いている。
本来なら護衛は無駄口を叩かず側にいるものらしいが、今回ばかりは俺とラウニが変なテンションになるのを止めてくれて助かった。
ラウニもすっと冷静さを取り戻し、苦笑した。
「…失礼致しました。アキラさま、お疲れになったでしょう。こちらで身体をお拭いします」
あ、助かる。
水が入った桶が側にある椅子へ促され、ラウニが服をはだく前に俺は素っ裸になってやった。
いや、違うな。下着だけはいてるからパンイチだ。
「相変わらず、思いきりが良すぎますね……。他の方々の前では、本当にご注意下さいませ」
ため息をついてラウニは固く絞った布で俺の身体を拭い始めた。
あー気持ちいい。
身体を出た手の動きは優しくて心地よくて、リラックスしてくるのがわかる。
他人に世話されるのって気恥ずかしかったけど、流石にもう慣れたぜ。
しかも、相手はラウニだしな。
肌を触れあわせた間柄でもあるし、何の遠慮もいらねーよなっ!
ふんふんと機嫌良くなってる俺を不思議そうに見ながら、ラウニは優しく優しく俺の身体を拭ってくれていた。
さっぱりした俺の身仕度が整い再びラウニとともに天幕を出る時には、辺りはすっかり暗くなっていた。
最小限のかがり火が野営地を照らしている。
天幕の前に立っていたのがベセル一人になっていたから聞けば、ネイトはアルバンの元へ向かったらしい。
俺もアルバンのところに行く事にして、ラウニと野営地の中を歩いていく。
茶を飲んだテントの前にネイトがいて、アルバンは座って何やら色んな紙を広げて見ていた。
「なにしてんの」
「…ああ、アキラか。少しは落ち着いたか?」
「うん。さっぱりした」
また隣に座れば、アルバンもちょっとさっぱりしたような顔をしていた。よく見れば、髪が少し湿っている。
「…髪、濡れてるな」
「水を浴びたからな」
チョイチョイと髪を引っ張れば、アルバンはくすぐったそうに笑って応える。
「水浴び?」
「近くに川がある。そこでさっと浴びてきた」
「なんだ、俺もそこに行けば良かった」
「……少しは女だということを自覚しろというのに……」
呆れたようにアルバンはつぶやき、何故か俺の腰を抱き寄せてぴったりと自分の懐におさめた。
最近、本当にこういうの多いんだよな。
王子サマの特性なのか余りに自然で、俺は抗議するのも諦めてしまった。
そして周りも、アルバンの行動に慣れたのか何にも反応しない。
それどころかそういう状況になると、周りは気配を自ら薄くしているような気がする。ほら、今も。
…これはどういう意味なのか……聞かない方がいいんだろうなぁ。
アルバンは俺を抱き込んだまま、また広げられた紙を見ている。
俺も見てみるが、この世界の文字にようやく慣れてきたレベルでは殆ど読むことはできない。
「もしかして、これは仕事の書類か?俺が見てもいいわけ?まあ、読めないけどさ」
「構わぬ。これは事件の調査報告書だ。子爵地に着いたら、ついでにあの館をちゃんと見ようと思ってな」
「あの館って、あの?」
「ああ。セリノの話では、人ならざる者の関与があったらしいな。館自体はいずれ取り壊すが、その前にその点を今一度調べておかねばな。調査団も数日後には子爵地に着くよう手配してある」
「なんだ。今回の移動は元々調査の為だったのか」
「ん?それは違うぞ?ついでにと言っただろう?一番の目的は、お前だ」
俺も変な事言っちまったなと思ったけど、なんでアルバンが嬉しそうにするんだ。
髪を撫でておでこにちゅっとか、なぜにする。
そしてネイトやラウニやルーは、なぜに気配を更に薄くするんだ!
「やめろ。仕事を続けろ!」と顔を押し退けたってーのにアルバンはまた嬉しそうにして、押し退ける手を握り込んでキスを落とし、よしよしとまた頭を撫でてから紙に視線を落とした。
ちくしょう、もう余計な事は話さねーぞっ!
テントと天幕は同じ意味ですが、寝る場所を天幕、作業や茶を飲む場所をテントと表現しました。
4月17日に公開しました※この回はいずれ消える幻※は予告通り削除しました。




